特殊部隊の原型
SEALsやデルタ・フォースといえば、映画でもよく登場するアメリカの特殊部隊として有名ですが、現代のような特殊部隊は第二次世界大戦のころに登場しました。
たとえば、のちにブランデンブルク部隊と呼ばれるようになる特殊部隊を、第二次世界大戦前にドイツの情報部が創設しています。
この特殊部隊の創設には、第一次世界大戦時のアラビアのローレンスによる戦いや、アフリカ植民地で行われた不正規戦が参考にされたと言われているそうです。
語学に堪能な者が多数集められたこの部隊は、ときに敵の軍服を着用して敵勢力圏に浸透し、橋やトンネルなど重要施設の占領・破壊などの活動を行っていました。
これら部隊はヨーロッパのみならず、北アフリカ、チャド、イラク、イラン、アフガニスタンなどにも侵入し、偵察のほかに反イギリス勢力の支援や破壊活動に従事します。
また、コマンドーは第二次世界大戦初期に劣勢だったイギリスが、ドイツに反撃するための軽装備の奇襲部隊として編成しました。
コマンドーという名前は、ボーア戦争(1899~1902)において、イギリス軍を苦しめたボーア人の民兵組織からとられたものですが、いまでは特殊部隊の代名詞のひとつとなっています。
コマンドーは、ノルウェーから地中海沿岸にいたる全ヨーロッパにおいて、ドイツ軍に対する遊撃戦を展開し、SASは、その一部が独立した部隊で、後方撹乱・破壊工作を主な任務としました。
アメリカは、参戦直後の1942年に奇襲部隊としてレンジャー部隊、後方撹乱を目的とする第1特殊任務部隊、敵占領地域で情報・工作活動を行うOSSを設立し、多様な任務を行うようになります。
ちなみにOSSは、CIAの前身とされています。
以上で紹介したこれらの部隊が、現代の特殊部隊の原型となりました。
SAS
戦後になると、不正規戦への対処のほかに治安維持や、対テロ作戦も特殊部隊の任務とされ、やがてそれぞれの任務に特化したさまざまな特殊部隊へと進化していきます。
映画やテレビドラマでの特殊部隊の活躍といえば、短期間で終了する強襲任務がほとんどです、しかしこのような派手な活動ばかりが特殊部隊の任務ではなく、正規戦、戦略・民事作戦、長距離偵察、対ゲリラ戦、強襲・対テロ作戦、戦闘捜索救難など多岐にわたり、なかには戦闘を伴わないものもあります。
これらすべてを行うことは非常に困難で、SASを除いて、これらの任務をすべて行う部隊はありません。
強襲任務では高い戦闘技術が要求されますが、サブマシンガンなどを使用した近接戦闘が中心となり、作戦は短時間で終了するために、戦闘用以外の余計な装備は必要とされません。
また、正規戦では反対に特殊任務に加え、通常の部隊と同様の戦闘を行わなければならず、部隊にもある程度の規模が必要となり、重装備や長期戦の準備を要します。
前述のとおりイギリスのSASは例外です。
SASはフォークランド紛争に参加し、北アイルランドで対テロ作戦を行い、長距離偵察や民事作戦も行います。
詳細は不明ですが、SAS内のチームである、スコードロンごとに任務が分けられていることが推察できます。
また、各国には警察・保安系の特殊部隊というものも存在し、アメリカのSWAT、ドイツのGSG-9、ロシアのアルファなどがそれで、人質救出や対テロ作戦を行っています。
これらの部隊の装備は、サブマシンガン、アサルト・ライフル、狙撃用ライフルなどであり、軍隊系の特殊部隊とも協力して作戦を遂行します。
厳しい選抜試験
特殊部隊の隊員は、一般の兵士から選抜し、短期間の集中訓練の後にその結果により入隊を決める場合もあり、このような隊員の選抜と訓練により、特殊部隊が効果的に行動できるかどうか、が決まってきます。
日本では、警察系特殊部隊に警視庁や一部の県警本部に置かれているSATや海上保安庁の特殊警備隊SSTなどがあり、通常、特殊部隊は一般の部隊から志願を募り、それらの兵士で構成されます。
ゆえに、選抜試験には通常の部隊にはない厳しい条件が課され、さまざまな選抜試験により、志願者は体力、持久力、精神力、適正などを試されるのです。
背泳ぎで40ヤードを25秒以内に泳ぐこと、完全装備で110ヤードを泳ぎきること、腕立て伏せを1分間に33回、腹筋運動を37回こなすこと。
これらは第一期デルタ・フォースの選抜条件だったといわれています。
また、デルタ・フォースでは入隊志願した狙撃手に対し、600ヤードの距離で100%、1000ヤードの距離で90%の命中率を要求しているともいわれています。
SASでは志願者に数か月の訓練を受けさせ、パラシュート降下や戦闘サバイバル技術を修得できた者のみ入隊を許可されます。
戦略任務に就くグリーンベレーの場合では、戦闘技能をすでに修得しているほかにパラシュート降下資格を取得しており、さらに外国語の適性が要件となってきます。
加えて、「作戦および情報」、「兵器」、「爆破」、「通信」、「衛生」のうち2科目の特技資格をも修得していなければなりません。
これらのような厳しい選抜条件があるため、当然のごとく選抜試験を突破できる志願者の割合は低く、最も厳しいとされるSASの場合では20%前後といわれています。
また、レンジャー部隊では、志願者だけでなく、レンジャー学校でサバイバルや山岳戦を学ぶレンジャー訓練課程に参加した将校や兵士の受け入れも行われています。
こうした選抜試験にやっとの思いで合格しても、本格的な訓練はさらにこれからなのです。
射撃や突入といった戦闘技術はもちろんのこと、偵察・爆破・ナビゲート・野戦治療・サバイバル・パラシュート降下などなどの訓練が数か月にわたり続きます。
パラシュート降下など多くの訓練
特殊部隊のパラシュート降下はHALO(高高度降下低高度開傘)という方法が採用されています。
これは、高高度を飛行する航空機から降下し、フリーフォールの後、低空にてパラシュートを開くという方法です。
利点として、航空機が高高度を飛行するため敵勢力下の地域上空でも気づかれにくい点が挙げられますが、長い距離を降下するため正しい目標地点に降下するには高い技術が必要になります。
ときには酸素マスクを使用しなければならないような高度から降下することもあります。
用いられるパラシュートは空中でも操作しやすい形状で、正しい操作を行えば、少ない誤差で予定降下地点に着陸できるようになっています。
ただし、多人数で降下する際にはHAHO(高高度降下高高度開傘)が使われることになります。
SBSやSEALsであれば、水中ダイビングやゴムボートの扱い方などの訓練を受けることになります。
SEALsの隊員は、併せてパラシュート降下の訓練も受けることになっており、彼らは水中工作員であり、空挺部隊員でもあり、強襲部隊でもあるのです。
アメリカの特殊部隊の狙撃兵は、バージニア州クアンティコの海兵隊狙撃学校に送られ、狙撃術、偽装技術、サバイバルなどを数週間にわたり訓練されます。
この学校は厳しい訓練で有名であり、各特殊部隊から狙撃兵が集まるのです。
入隊時に各種訓練をすでに終えていることが条件とされるグリーンベレーでは、より上級の訓練が行われることになります。
彼らは、派遣先の軍隊に不正規戦の戦術を教えなければならないため、まずは自らがそのエキスパートである必要があるのです。
それから、それを他の兵士に教える教育技術を学びますが、その際には外国語も必要となり、中南米やアジアで話されるスペイン語やポルトガル語から韓国語、アラビア語などさまざまな言語のエキスパートが養成されます。
グリーンベレーが現地の情報を収集するうえでも、外国語は必須科目といえるでしょう。
併せて、地域情勢や現地の文化についても学ぶことになり、このような各特殊部隊の訓練で脱落する者も多いのです。
半数を超える訓練生が脱落するともいわれ、さらに晴れて隊員になれたとしても、一年のうちの多くの時間を特殊部隊では訓練に費やします。
特殊部隊の最も重要な任務は訓練であるといっても決して過言ではないでしょう。