日本の警察官が装備している銃といえば、ニューナンブM60。
現在ではスミス&ウェッソン社やSIG社の銃が後継機種として更新されつつありますが、まだまだ主力はニューナンブM60です。
ご存知の通り、日本は銃刀法という法律上一般の市民は銃を持つ事が出来ないわけですから、あまり本物の銃を見たことは無いと思いますが、一番近くに存在しているのはこの銃でしょう。
ニューナンブM60の開発
ニューナンブM60が参考にしたとされているのは、スミス&ウェッソンのM36。
この銃自体が、警察用の拳銃として開発された銃であり、携行性を考え小型で比較的軽い銃となっています。
この特徴を実現させるために、リボルバー型の拳銃としては珍しい5連装を採用しています。(普通は6連装)
開発されたのは1950年ですが、60年以上たった今でも、シンプルで小型な銃として定評があり、今でもアメリカのような銃社会では必要とされ、女性向けの護身用モデルして装飾された「M36 Lady Smith」というものも存在しています。
これに対し、ニューナンブM60も5連装である事は同じですが、M36と比べると若干大きい作りで、M36の全長が160mmなのに対して、ニューナンブM60は198mmはほどもあり、重量もM36が554gなのに対して、680gほどもあります。
集弾性能はシングルアクションによる25メートル固定射撃ならばかなり信頼性があり、ダブルアクションにおいても慣れれば、かなり良いとされている。
(ダブルアクションの感覚はモデルとなったM36とそっくりだという話です)
また、設計自体は1951年でありその歴史は長く、当時はグリップが短いため、小指がかかりにくいとかグリップが割れやすいなど、グリップ周りに問題をかかえていましたが、いまではほぼ開発されているとの事。
リボルバー式ゆえに、構造がシンプルでメンテナンスも楽だとされていますが、銃身内部がクロムメッキ処理されていることもあり、銃身自体の寿命も長いとされています。
ニューナンブM60は、警察官が5メートル以内にいる犯人や容疑者に向けて使用することを想定しており、主にダブルアクションによる連発射撃訓練を行っているそうです。
名前の由来について
ニューナンブという名前は、日本における銃器開発の第一人者、南部麒次郎氏の名前にちなんだもの。
彼はニューナンブM60を製造していたミネベア株式会社に吸収合併された企業、新中央工業の前身、中央工業の創始者でもあります。
つまり新中央工業の「新」と南部麒次郎氏の「南部」をとりニューナンブとなったわけです。
この名前は商標登録もされているため、玩具の銃であっても「ニューナンブ」と表記されているものはないそうです。
幻のニューナンブシリーズ
ニューナンブM60が開発されるにあたって、ニューナンブを冠した他の銃器も存在しました。
ニューナンブM57A
1957年に開発されたハンドガン。
名前はニューナンブであるものの、モデルとなっているのはM1911(通称コルトガバメント)であり、リボルバー式ではありません。
弾丸もM60が.38スペシャル弾なのに対して、9mmパラベラム弾を採用していますし、M60とは完全に違う銃です。
(見た目はコルトガバメントだが、中身はトカレフに近いという不思議な銃だったそうです)
元々、配備先が自衛隊なので、警察とは無関係の銃ですが、試作だけで終わり、採用はされませんでした。
ニューナンブM57B
こちらは、M57Aと違って、警察用に開発された銃です。
モデルは、戦前から日本の警察で使われていたブローニングM1910であり、弾丸は.32ACP弾を採用、こちらもリボルバータイプではありません。
薬室内の装填の有無がチェックできたり、残弾がチェックできたりと独自のアイディアも盛り込まれた独特な銃だったそうですが、結局、リボルバータイプのM60が採用されたために、試作段階のみに終わったそうです。
リボルバータイプを選んだのはやはり信頼性やメンテナンスのしやすさなど、使い勝手が良かったからなのだと思います。
日本の警察が犯罪者と対峙した時、銃対銃という状況は少ないでしょうから、火力にこだわる必要はなかったんでしょうね。
(火力が必要となる銃犯罪者を相手にする場合は、特殊班が別装備で出動する様ですし)
ニューナンブM60の後継機
ニューナンブの変わりに採用されている警察官向けの銃も、やはりリボルバーが主体です。
M37(エアーウェイト)
特に正式に採用が決まっているのがスミス&ウェッソンのM37。
M36の後継機でもあるこの銃は、ニューナンブM60との関わりも強く、使い勝手はそこまで変わらないのでしょう。
ちなみにこのM37は、アルミ合金製フレームを採用し、M36よりも更に軽量化を図っており、別名の「エアーウェイト」もその名の通り、空気のように軽いという意味です。
あえて問題点をあげるとすると、通常の銃と比べると若干耐久性が劣っているという事ですが、日本の警察官が発砲する事態は非常に少ないですからさして問題はないでしょう。
M360J
銃器ファンとしては、かなり注目されていたのがM360J。
これはM360をベースにした日本の警察向けの特注モデルで、命中率、耐久性ともに高水準の銃として製造されました。
しかし、2010年度の調査で、不具合がおきているモデルが200丁も発見され、回収されると、この事により一気に信用を失ってしまいました。
M360Jの通称は「SAKURA」、実に日本らしい名前がついた銃なので非常に残念です。
ニューナンブM60をとりまく誤説
警察官が所持している銃は一発目が空砲などという噂が昔からありますが、故意にそのような状況が必要にならないかぎりは、すべてが実弾であり、「一発目は空砲にせよ」などというルールはないそうです。
ただ、このような誤説が生まれてしまった原因のひとつとして、日本の警察官が所持する拳銃は、弾丸が5発という定めがあり、米軍から貸与された6連発の拳銃にたいしては、5発しかこめていなかった時代があったそうです。
(しかしこの場合でも空砲となっていたのは最後の薬室であり、最初が空砲という事はなかった様子。)
現在では、6発以上装填できるならそのまま前弾装填してもいい事になっており、絶対に5発ということはないそうです。
ニューナンブM60の配備先は、警視庁を初め、各都道府県の警察本部や皇宮警察、海上保安庁。
後は刑務官や麻薬取締官用だとされ、官給品のため、正確な構造や配備数などは一切公開されていますが、少なくとも自衛官が持つ銃ではなく、最も大きいイメージはやはり「おまわりさん(警察官)の銃」ということでしょう。
刑事ドラマや漫画、映画などには、しょっちゅう登場する銃で、警察官の日常を描いたギャグ漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の両津勘吉が持っているのもこの銃です。
あんなにガンガン発砲する警官は現実にはいませんが、銃マニアでなくても目にしている銃と考えれば、誰もが一度はその姿が視界に入っている銃と言っても過言ではないでしょう。
随時新しい銃に交換されているため、数十年たてば消えてしまう事実はかわりませんが、「ニューナンブ」という名前まで消えてしまうのはなんだかちょっと寂しい気もしますね。
銃器業界で日本が発展するという事はありえませんが、「国産」の銃という意味では、ニューナンブM60は非常に誇らしい物であると思います。