近年艦これの大ヒットで、注目を浴びる軍艦ですが、軍艦とは軍隊が運用する船を指し、単に艦ともいい、航空母艦・巡洋艦・駆逐艦・フリゲートといった水上戦闘艦、潜水艦、上陸用艦艇など、機能や構造の異なるさまざまな艦種に分類できます。
まず軍艦としてイメージされるのは、雄大な海を堂々と進む巨大な姿ではないでしょうか。
以下に、過去の巨大軍艦として戦艦を、現在の巨大軍艦として空母を紹介したいと思います。
消えゆく戦艦
戦艦(Battleship)は、敵の艦を砲撃で撃破するための強力な大口径砲と、同程度の敵に対する防御を備えた巨大な軍艦です。
現在では、すべての戦艦は退役し、横須賀の「三笠」のように記念艦や博物艦として残るのみとなっています。
ちなみに大人気漫画「進撃の巨人」のヒロイン、ミカサ・アッカーマンの名前の由来はこの戦艦「三笠」です。
19世紀のはじめに木造帆船の時代が終わり、軍艦は装甲艦の時代に突入しました。
やがて砲塔を装備した全鋼鉄製の鋼鉄砲塔艦が登場し、1902年、日本がイギリスに発注した「三笠」が完成したころには戦艦の呼び名が定着しました。
この三笠が、連合艦隊旗艦として日露戦争の日本海海戦においてロシア艦隊に圧勝した話は有名です。
その勝利を忘れられない日本海軍は、艦隊決戦思想を背景にし、戦艦はどんどん巨大化していきます。
「三笠」の常備排水量は1万5140トンでした。
1941年に完成した宇宙戦艦ヤマトのモデルとして有名な大和級の基準排水量は6万9100トンに達し、ニミッツ級空母が登場するまで世界最大の軍艦でした。
「大和」の主砲である46cm砲は、1.46トンの弾頭を42km先まで飛ばすことのできる世界最強の砲でした。
東京駅から横浜を越え、大船付近まで到達する距離が42kmです。
相手を直接見ることもできない距離であるため、当時は観測機を飛ばし、その指示を受けて照準を調整しました。
命中率は当然のごとく極めて低くかったのですが、射程の外からの一方的な攻撃は脅威と考えられていました。
強力な砲を備えている戦艦ですが、同時に自らの砲と同等の威力の砲に耐えうるだけの防御力も要求されました。
強力なパンチを繰り出し、相手のパンチを受けるという、いうなれば、戦艦は殴り合いが可能な軍艦ということです。
一方、厚い装甲で艦全体を覆ってしまうと艦は重くなりすぎて鈍重になるため、主砲や弾薬庫などの主要な部分のみを厚い装甲で覆い、その他の部分については区画を細かく分けるなどの工夫をして防御力を高めました。
しかしながら戦艦は、第二次世界大戦では航空機の発達により、期待された活躍ができませんでした。
制空権をうばわれた海域では巨大な砲もまったく役に立たなかったのです。
現代の戦場では、なおさら戦艦が活躍することは難しいといえるでしょう。
戦艦は、どんなに強力な砲をもってしてもせいぜい40kmしか届かないのに対し、最新鋭の巡航ミサイルは数百から1000kmを超える射程があり、ピンポイントで正確な攻撃が可能です。
さらに戦艦はいくら厚い装甲に覆われていても多くの爆弾や魚雷を受ければ、やがては浸水し沈んでしまうでしょう。
移動する基地、航空母艦
航空母艦は空母と省略され、呼ばれることが多く、文字通りに航空機の母艦となり、航空機が発進・着艦し、艦上では整備・補給・修理が可能です。
運用や形が似ている艦もありますが、厳密には、陸上機と対等の性能をもつ固定翼機が発艦・着艦できる艦のみが空母と呼ばれます。
そのために、空母は広い滑走スペースとしての平坦な飛行甲板をもち、飛行甲板の下は格納庫となっており、巨大なエレベーターにより航空機を出し入れします。
使用中も飛行甲板の作業を妨げないように、このエレベーターは舷側に設置されています。
空母は軍艦としては最大の船体をもっていますが、それでも固定翼機を発艦させるには、蒸気の力を利用して航空機に運動エネルギーを与えるカタパルトが必須の装備となります。
ロシアの空母アドミラル・クズネツォフは、例外的にカタパルトをもたず、ジャンプ台を用いて航空機を発進させますが、航空機の重量に制限があります。
空母にとって最重要事項は、限られた飛行甲板でどれだけ効率よく安全に発艦・着艦を行うかということで、このため現代の空母では、船体中心線に対し10度前後の角度をもたせ、着艦用のアングルドデッキ(斜め飛行甲板)を設けて発艦と着艦を分離して同時に行うことができます。
またこれにより、着艦時の大きな事故を減らすことができます。
空母は戦艦と違い、固有の攻撃兵器・防御兵器をもたず、そのため空母の価値は、世界の海を移動する機動力を備えた航空基地である点にあります。
空母は、戦闘だけでなく、レーダーを搭載しての早期警戒などの任務をこなすさまざまな艦載機を多数搭載し、この艦載機は状況に応じて多様な兵器を装備でき、艦載機自体も場合によって変更することができます。
空母はすみやかに紛争地域に近い海域に進出し、戦力を投入することができるのです。
アメリカが関与した戦争のほとんどすべてにおいて空母は重要な働きをしました。
イラク戦争やアフガニスタン戦争のとき、クウェート以外の中東諸国はアメリカ軍に自国の基地を使用させませんでした。
しかし、このような状況においても公海を航行する空母のために通常通りの作戦が遂行可能となりました。
世界の主要都市および工業地帯の60%以上は沿岸部から数百kmの距離にあるといわれており、それらすべてを空母から攻撃することができるからです。
アメリカが保有するような巨大な空母の建造費は、建造中のジェラルド・R・フォードで120億ドルともいわれており、これは自衛隊全体の装備品調達費のおよそ2年分に相当します。
さらにこの空母の運用には5000人以上の乗員が必要となり、普通の国の海軍では、この人員をそろえることすらできないでしょう。
V/STOL空母や強襲揚陸艦でない純粋な空母を保有・運用している国は、現在4か国にすぎません。
さらに歴史上、空母同士が戦った事実は、第二次世界大戦中に日本と米英の空母によるものしかありません。
とくに日本とアメリカの両国の空母部隊は広い太平洋を舞台に幾度も空母同士の戦いを繰り広げました。
戦後、空母同士の戦いは起こっていませんが、1950年~1953年の朝鮮戦争から現在まであらゆる地域に空母は出動しています。
移動する基地である空母は、海外に戦力を投入する手段として、非常に高い戦略的価値があり、今後、空母への対抗手段が開発されたとしても、戦力の投入手段としての空母の価値が大きく減じることはないでしょう。
戦後の空母の戦いは、ほとんど空母が安全な沖合から地上の敵対勢力を攻撃するというものでした。
唯一、空母部隊が攻撃にさらされたのは1982年のフォークランド紛争で、アルゼンチン軍機はエグゾセ対艦ミサイルを使い、二度にわたってインヴィンシブルとハーミーズの2隻の空母を擁するイギリス艦隊を攻撃しました。
しかし、発射されたエグゾセ対艦ミサイルは駆逐艦や輸送船を撃沈しましたが、結局のところ、空母に損害を与えることはできなかったのです。