過去、拳銃の世界に「エージェント」と銘打たれた傑作が存在しました。
アメリカの老舗銃器メーカーであるコルト社が1962年にコルト・コブラのバリエーションのひとつとして開発し、スナブノーズリボルバー「コルト・エージェント」です。
もともとコルト・ディテクティブスペシャルの一類型であったコブラを、さらに進化したものへと押し上げるために開発されたモデルで、1986年までで生産は終了となりましたが、あれから30年の時を経て、新たな「エージェント」が誕生しました。
それが「コルト・ニューエージェント」です。
しかもリボルバーではなく、オートマチックとして生まれ変わり、M1911の流れを汲むシリーズの中からサブコンパクト拳銃(=護身用拳銃)として発表されたのでした。
サブコンパクトというジャンルに、M1911モデルを投入するのはコルト社にとっては初めての試みで、アメリカにおいては専門家のみならず一般ユーザーからも注目を浴びました。
2012年、「コルト・ニューエージェント」を、ウエスタンアームズ(以下、WA)が初めてガスブローバックガンとしてモデルアップしました。
今回はその『WA コルト・ニューエージェント』をご紹介しようと思います。
まず、コルトM1911といえば多くの方々は「ガバメント」をイメージされるのではないでしょうか。
1911年から実に70年にわたりアメリカ軍制式拳銃として採用されており、第一次世界大戦からベトナム戦争まで、数々の激戦をくぐり抜けてきた名銃として、あまりにも有名です。
M1911はガバメント以外にも数多くのバリエーションが展開されており、現在でも軍や法執行機関での採用だけにとどまらず、一般ユーザーの間でも変わらず人気を博しています。
また、コルト社だけでなく外国の銃器メーカーにおいてもM1911モデルが数多く製造、販売されています。
これは、第二次世界大戦時にコルト社だけでは銃の供給が追いつかず、やむなくライセンスの取り扱いを緩和した経緯があったためで、中には銃器メーカーではない、たとえばミシンメーカーなどがM1911を製造していたという歴史的事実まであるほどです。
そんなコルトM1911も長年にわたりいくつものバリエーションを重ね、複数のシリーズが展開されてきました。
「ニューエージェント」は発表当時、90シリーズに属していたと思うのですが、現在はNew Agent Seriesという独自のシリーズが設けられているようです。
私は『WAコルト・ニューエージェント』を初めて目にしたとき、思わずひと目ぼれしてしまいました。
ガバメントに代表されるM1911が持つ、良い意味での刺々しさ、ごつごつした感じがまるっきり感じられなかったのです。
私は以前からM1911の面構えがあまり好きになれず、どうしてもベレッタやSIG SAUERなどばかりに興味を持ってしまいがちでしたが、「ニューエージェント」はちがいました。
これまでのM1911に当たり前にあったものを、ちょっと取り除いたり付け替えたりするだけで、こんなにも印象が変わるのかと驚かされました。
がらっと印象を変えるもっとも大きなポイントは、やはりニューエージェント独自のトレンチスタイルのサイトシステムではないでしょうか。
一般的にオートマチック拳銃というのは、フロントサイトとリアサイトの溝の部分が一直線上に重なる位置で、狙いをつけて射撃しますが、ニューエージェントにはその両サイトが存在しないのです。
代わりに、スライドトップに縦一直線に溝が彫ってあり、これをサイトがわりにして狙いをつけるわけです。
この銃は護身用のためのコンパクトガンであり、危機に直面した際に即座に取り出せるように、突起部分を極限まで取りはらってあるのです。
この必要性から生まれたデザインひとつで、M1911とは思えないすっきりとした印象を与えることに成功しています(ガバメント好きにはちょっと物足りないかもしれませんが)。
このデザインに私はひと目ぼれしてしまったのでした。
他にも、ハンマーとその周辺のデザインに丸みがつけてあり、やはり衣服などへの引っかかりを避けるための工夫となっています。
こういったデザインはすべて実銃の「コルト・ニューエージェント」を忠実に再現したものとなっています。
WA『コルト・ニューエージェント』のボディは全体にマットブラック焼付け塗装が施されており、ツヤを抑えた渋い黒色になっており、同社のカーボンブラックヘビーウェイト樹脂と比べてもそれほど見劣りせず、むしろこっちのほうが実銃の黒染めに近い感じがします。
手に取ったときの重量はなかなかのもので、850グラム以上あり、実銃の約650グラムよりも重たいことになります。
コートのポケットにすっぽり収まるコンパクトボディからは一見想像できない重量感です。
スライドとフレームにヘビーウェイト樹脂を使用しているのに加え、グリップパネルもダイキャスト製のものを装着することで、これだけの重量を出すことができるわけです。
また、スライドをオープンしたときに顔を覗かせるアウターバレルとリコイルスプリングガイドロッドも、それぞれ真鍮製とスチール製になっているので、こういうところでも重量バランスをうまく取っているのかもしれません。
グリップの握り心地はというと、とくに好印象はありませんが、グリップパネルに覆われていない部分の触り心地がいいです。
これはマットブラック焼付け塗装の特徴なのかもしれませんが、さらっとした肌触りでありながら、手が滑ってしまうようなことはありません。
両サイドの刻印類は非常に精巧に彫られていると思います。
専用のマシンを使って刻印するらしいのですが、ロゴマークや文字にゆがみもなく、リアルさを追求した仕上がりになっています。
トレンチスタイル・サイトシステムの要であるスライドトップの直線の溝も、同様にマシンを使って彫られています。
ハンマーおよびトリガー機構についてですが、このガスブロモデルの場合はシングル/ダブルアクション両用となっています。
実銃は、コルト社のHPによるとシングルアクションと表記されています。トリガーストロークはWAの他のM1911と同じような感じですが、トリガープルはやや軽めにできているように感じました(個体差なのかもしれませんが)。
では、実際に射撃してみた感想をお伝えしたいと思います。
4月下旬、気温22度の屋外、まずはターゲットを置かずに、30メートル先まで何も障害物のない場所へ向けて撃ってみると、ブローバックはけっこう力強いです。
リコイルも想像していたより重く、コンパクトサイズのガスブロでこれだけのパワーがあれば文句のつけようはないかと・・・。
10メートルあたりまでは真っすぐ飛んでいきますが、それ以降ゆるやかに弾道がホップしたり、やや左方向へ逸れたりしました。
ただし風の関係もありますので、無風状態であればあと5メートル以上は真っすぐ飛んでくれるのではないかと思います。
固定ホップ仕様になっているため調節はできませんが、ゲームなどで精密な射撃を求められる場合でなければとくに問題ないと思います。
最大装填数の19発をいちどもジャムすることなく撃ち尽くせましたので、マガジンのガス供給は安定しているといえるでしょう。
屋外で音を気にする必要もなかったので、こんどは5メートルの距離にアルミ製の空き缶を置いて撃ってみましたが、集弾性はまずまずです。
トレンチスタイルだから狙いにくいのかなあと思っていたのですが、そうでもなかったです。
普通にサイトがあるときと同じようにスライドトップの溝を利用して狙いを定めます。どうしても視点が低くなりますが、BB弾を使用するガスブロであるかぎりとくに問題なく撃てます。
これが実銃ならどんな感じになるのかちょっと疑問ですが・・・。
大型拳銃なみの飛距離は期待できませんが、全体として安定した動作が確認できましたので、ゲームの際にちょこっとポケットなんかに忍ばせておくと、いざというときに役に立つかもしれません。
追加情報として、実銃のコルト・ニューエージェントにはちょっと面白いバリエーション展開がされています。
グリップ上部(ちょうどスライドとの境目あたり)にレーザーポインターが内蔵されたタイプで、ターゲットにレーザービームを照射し、狙いをつけて撃つわけです。
スナイパー用のライフルだと映画などでたまに登場しますが、コンパクトガンでこの手のものは珍しいのではないでしょうか。