現在の世界においては、国同士の戦争より、対テロ戦争が多く、こうした戦争では大規模な戦力を投入することは難しく、また兵士にとっても敵が軍服を着た正規兵ではなく、非正規兵を相手にすることが多くなります。
また、戦争をするためには膨大な軍事費が掛かりますが、たとえばアメリカは財政が厳しいために、軍事費を削減する方向で動いています。
こうした時代に、戦場での活躍が期待されているのが狙撃兵(スナイパー)で、狙撃兵は精度の高い専用の狙撃用ライフルを用いて、はるか遠距離から獲物を狙い撃ち、仕留めるという恐るべき存在です。
対テロ戦争に狙撃兵が活躍しているその理由は、小人数で大きな戦果を挙げることができるというメリットがあるからで、敵からすれば、戦場でこちらの攻撃が届かない遠距離から狙撃兵に狙われるのは恐怖以外の何ものでもありません。
このような状況では、少人数のスナイパーが、大部隊を足止めする、ということも起こりうるのです。
おまけにスナイパーの放つライフルの弾丸は、1発数十円というコストの安さ、軍事費削減という点でも、効率的で、また、狙撃兵は敵の中心人物だけを狙う、という戦術を取ることができ、その結果、テロの首謀者を葬り去ったり、ある敵部隊のリーダーや将校を殺害することで、敵の戦意を喪失させたり、指揮系統を混乱させるという効果も出せます。
以前は狙撃兵は卑怯な存在とみなされたり、戦術的に軽視されることもありましたが、上記のような活躍をしてくれる狙撃兵は、いまや戦場に欠かせない存在となっています。
また、狙撃兵は人だけでなく、敵の装備や設備を破壊するためにも活躍、たとえば50口径の対物ライフルを使うことで、航空機のエンジンを破壊したり、ヘリを撃墜したり、ミサイルを破壊するなどのことができます。
狙撃兵は敵の監視や索敵なども得意とし、暗闇や障害物に身を潜める術に長けており、ライフルのスコープや双眼鏡などを使って敵の数や配置、装備などをチェックします。
狙撃兵はこうした戦術的役割を、1人や2人といった少人数でも果たすことができます。戦場で彼らが重宝されるのも頷けます。
それではスナイパーはどれくらいの遠距離から標的を仕留めることができるのでしょうか。
多くの場合には、敵の攻撃の射程圏外である数百メートル離れたところから狙撃しますが、それ以上遠距離から射つためには大型のライフルが必要となるからです。
700メートル程度であれば、頭を射抜くヘッドショットが可能で、まさにワンショット・ワンキル、一撃必殺です。
敵からすれば、数百メートル離れて自分からはどこにいるかもわからない狙撃兵が、自分にスコープの照準を合わせているかもしれない、という恐ろしい状況です。
ちなみに一般の狙撃用ライフルでも1000メートルを超える場所を射抜くこともありますし、対物ライフルという大型の狙撃銃を使えば、2キロ以上離れた標的を狙撃することもできます。
とはいえ、現実には劇画「ゴルゴ13」のように、必ず標的を仕留めるというわけにはいきません。
たとえば風は正確な射撃を妨げますので、スナイパーは風の向きと強さを計算して、狙撃を行います。
強風であればあるほど、着弾のずれが大きくなりますが、スナイパーは風下または風上に移動すれば、風による影響を減らすことができます。
先ほど多くの場合には数百メートル離れたところから射つと説明しましたが、その理由の一つはなるべく近くから撃った方が、風などの影響を減らせるからで、標的まで遠距離になればなるほど、風による着弾のズレは大きくなります。
できるだけ遠距離から撃つ方が敵の攻撃が届かないため安全ですが、重力によって弾丸は大きく沈みますので、射撃の難易度がそれだけ高くなります。
正確に風や重力などの影響を計算して、離れたところから正確な狙撃をする、それが一流のスナイパーといえます。
それではどうやって標的に照準を合わせるのでしょうか。狙撃用ライフルには、高性能のスコープが搭載され、倍率が高ければ遠くの標的も明確に捉えることができますが、手の動きなどによるブレも大きくなり、視界が狭くなるというリスクがあるため、倍率は8倍程度がよく使われます。
このスコープで標的を捉えたら、風や重力などの影響を考えて、あえて照準をずらします、たとえば左から右に風が吹いていれば、弾丸は右にずれて着弾するので、その分最初から標的の左に照準を合わせるのです。
あるいは、スコープには調整つまみがついていますので、あからじめ弾道のずれる分、この調整つまみを調整しておくという方法もあります。すると、レティクル(スコープの中心に付いている十字線などの印)の真ん中に標的を捉えれば、標的に当たるというわけです。
スコープによっては、レンズの倍率を変えることができるものや、飛距離ごとの弾道の沈み幅が表示されているものなどもあります。
夜間の狙撃では、暗視スコープなどを使うことになりますが、この場合には視界などが悪くなるため、狙撃の精度はやはり落ちます。
ところで狙撃兵はいくら遠距離から敵を狙うと言っても、狙われた敵は必死で反撃してくるため、常に危険と隣り合わせで、まず敵に自分の居場所が見つからないように、カモフラージュすることが不可欠となります。
そのためには、顔などをペイントしたり、周囲に溶け込むためのギリースーツを着用したり、太陽光に銃やスコープが反射しないように気をつける必要があります。
また、仮に居場所が見つからなくても、狙撃兵が同じ居場所にとどまることはやはり危険で、そのため狙撃兵は、目的を達したらすぐにその場を離れることが多く、あるいは隠れ場を複数用意しておくこともあります。
狙撃兵は1人でスコープを覗いていると、視界が狭くなり、周囲に敵がいても気づかない可能性が高く、周囲の監視などに限界があるため、通常2人1組で行動する事が多く、1人が狙撃を担当し、もう1人は周囲の監視や攻撃のサポートなどを行う、というシステムが主流となっています。
このように高度な射撃技術や隠蔽技術などを持ち、危険な戦場で少人数での任務を遂行する狙撃手は、今も世界のどこかで敵を照準に捉え、引き金を引こうとしているのです。