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戦場での初期治療

戦場では怪我や事故がつきものです。不幸にも被弾したり怪我を負ってしまった場合、治療の良し悪しや迅速な初期治療が、その後の運命を大きく左右します。

このような初期救命や初期治療は、日常の交通事故や怪我にも十分応用できるものです。大きな違いとしては、通常はそのまま病院へ搬送されるのに対し、戦場では軽傷であればそのまま戦闘を継続する点が挙げられます。また、一部の特殊部隊では重症であっても外科的処置を行い、たとえ救命が難しい状況であっても、最期まで任務を継続することが求められる場合があります。

本稿ではいくつかの例を挙げながら、救急対応の流れや処置の方法について説明していきます。

例1:腕を撃たれて出血している兵士を処置する場合

使うもの ターニケット

まず、危険な状況ではないか、撃った相手に狙われていないか、周囲に敵兵がいないかを確認します。必要であれば、安全な場所まで搬送します。

次に、意識の有無を確認します。

「おい、大丈夫か」「はい、なんとか・・・」

意識はあるようですが、右腕に貫通銃創を負っており、出血が激しい状態です。

成人男性の血液量は約6リットルとされており、その3分の1を失うと失血死に至るといわれています。

そのため、直ちに止血処置が必要です。

止血方法には、出血部位をタオルやガーゼで押さえて圧迫する「圧迫止血法」と、血管の通っている箇所をターニケットなどの止血帯で縛り、血流をコントロールする緊縛止血法があります。

右腕の銃創に救急包帯を押し当て、二の腕付近にターニケットを装着して締め上げます。

すると、徐々に出血量は収まってきます。その後、ただちに中隊本部へ連絡し、救急車両を要請して後送します。

ターニケット参考動画

例2:爆破で右ひざから下を失い、大量出血している兵士を処置する場合

使うもの パルスオキシメーター

味方陣地付近に爆弾が落下して爆発が発生し、被害者が出たようです。駆け寄ると、1人の兵士が倒れており、右ひざから下を失っている状態でした。

「おい、大丈夫か、交戦できるか!」と声をかけますが、返事がなく、意識がない様子です。

「誰か衛生を呼んでくれ!」と応援を要請するとともに、初期治療および初期診断を開始します。

ABCDに基づいて観察を行います。ABCDとは以下の通りです。

A : エアウェイ(airway) 気道は確保されているか
B : ブリージング(breathing) 自発呼吸はあるか
C : サーキュレーション(circulation) 血液循環はあるか
D : デフィブリレーション(defibrilation) 心室細動はないか

まず、次弾の危険を避けるため、傷病者を安全な場所へ退避させます。

搬送時には、首や背骨に骨折がないか注意します。無理に動かすと神経を損傷する恐れがあります。

A(エアウェイ)では、下顎を持ち上げて気道を確保する、または口腔内を目視し、舌の沈下や異物の有無を確認します。さらに胸の動きを観察し、自発呼吸があるかを確認します。どうやら呼吸はあるようです。

B(ブリージング)も問題ありません。

少し補足ですが、意識を失っている場合や過度のショック状態では、呼吸の有無が判断しづらいことがあります。

そのような場合に役立つのが、パルスオキシメーターです。これは血中酸素濃度と脈拍を測定する機器です。

サイズは約5cm×4cm程度で、指に装着すると約10秒で血中酸素濃度と脈拍を測定できます。

血中酸素濃度は通常95~100%程度ですが、呼吸が不十分な場合は90%を下回り、70~80%程度になることもあります。

また脈拍も測定できるため、サーキュレーションの有無や心停止の確認にも役立ちます。価格は約1万円とやや高価ですが、備えておくといざという時に有用です。

パルスオキシメーター参考動画

次にC(サーキュレーション)を確認します。パルスオキシメーターがないため、首の総頸動脈に触れて脈拍の有無を確認します。鼓動は確認できます。

これらの確認は、30秒以内に行うことが望ましいです。

なぜなら、呼吸や血液循環といった重要なバイタルサインの確認も重要ですが、それ以上に優先すべきは、ひざ下からの大量出血への迅速な対応だからです。

直ちに止血帯を取り出し、ひざの上を緊縛します。傷口にはタオルを当て、圧迫止血も併用します。

出血はある程度抑えられましたが、四肢欠損の治療には現場での限界があります。そのため、速やかに後送する必要があります。

幸いにも、数分で救急車両が到着するとのことです。ただし現場は危険なため、後方まで移動するよう指示されました。

全身を確認し、その他に大きな外傷や異常がないことを確認します。

応急担架を作成し、数名で救急車両の位置まで搬送し、無事に収容することができました。

衛生隊員から状況確認を求められたため、「負傷時の状況、発生時刻、実施した処置」を報告します。

その後、救急車両は段列地域へと向かって出発しました。

例3:撃たれた場合

使うもの チェストシール

敵陣地への継続的な応射を行っている最中、一人の隊員が被弾してしまいました。隊員はその場に倒れ込みます。「大丈夫か、交戦可能か!?」と声をかけると、「ごほっ、ゴボゴボ」と返答があり、意識はあるようですが呼吸が非常に苦しそうです。

「隊員が被弾した!衛生、来てくれ!!」周囲の隊員たちは身を低くして敵弾を避けながら、ABCDに基づいて状況を確認します。

エアウェイ(気道)は確保できているようですが、呼吸の様子が明らかに異常です。Aは問題ありませんが、B(呼吸)がうまく機能していません。

サーキュレーション(循環)は保たれているようです。つまり、ABCのうちBのみが不十分な状態です。不思議なことに、胴体のどこかを撃たれたように見えるものの出血はなく、どこを負傷しているのか判別できません。

どのように処置すべきか判断に迷います。人工呼吸を行うべきなのでしょうか。

そこへ衛生兵が駆けつけました。「こっちだ、こいつだ!」「撃たれたが、どこも傷が見当たらない。ただ、非常に苦しそうだ!」衛生兵は総頸動脈に触れて脈を確認し、パルスオキシメーターを負傷した隊員の指に装着します。

脈は正常ですが、SPO2(血中酸素濃度)が83と異常に低く、酸素がうまく循環していないことがわかります。

「これはもしかして……」そう言うと衛生兵は防弾チョッキを脱がせ、メディカルシザーで上着を切り裂きました。

すると、これまで気づかなかった胸部に、針で刺したような小さな傷が見つかりました。出血はほとんどありません。衛生兵は「胸部穿通性気胸だ!」と叫び、チェストシールと呼ばれる治療用シールを取り出し、傷口周辺に貼り付けました。

すると隊員の呼吸は徐々に落ち着いてきました。これは一体どういうことなのでしょうか。

気胸とは、胸部に穴が開くことで外気が肺へ流入し、肺を圧迫して正常な呼吸ができなくなる状態を指します。肺を圧迫する原因は、空気や血液です。

チェストシールは一方向弁を備えた密閉性の高いシールで、外部から肺への空気の流入を防ぎつつ、体内から漏れ出た空気を外へ排出します。これにより、肺が正常な位置と状態に戻るのを補助します。

もしチェストシールがない場合は、ビニール袋とガムテープで代用可能です。ビニールを傷口に当てて三方向をテープで固定することで、一方向弁のように機能し、同様の効果が期待できます。

なお、気胸には呼吸困難だけでなく、肺の位置変化によって心臓機能を阻害する「緊張性気胸」という非常に危険な状態もあります。

緊張性気胸と判断された場合は、緊急で胸腔内の脱気処置が必要です。その際は躊躇せず、わきの下から胸腔減圧ニードルを刺し、脱気を行う必要があります。

気胸参考動画

例4:熱射病で倒れた場合

こちらは、夏場のスポーツなどでよく見られるケースです。

部隊は連日の勝利により士気が高まり、戦果拡大のため行軍を開始しました。

約2時間後、機関銃を担いだA一士がふらつき始め、そのまま倒れてしまいました。

「どうした、A一士。大丈夫か、歩けるか?」「もう駄目です……」

「衛生、来てくれ!」騒ぎを聞きつけ、「鬼軍曹」と呼ばれるB二曹がやってきます。

突然倒れたと聞くや否や、目を覚まさせるようにA一士に往復ビンタを浴びせ、「貴様、それでも軍人か!血税で作られた機関銃を放り出すとは何事だ!立て!歩け!」と叱責しました。

「B二曹、殴るのはよくありません。熱中症の可能性があります。すでに衛生も呼んでいますので、治療を受けさせましょう」

ABCDに基づいて確認したところ、ABC自体には大きな問題はないものの、顔色が青白く、呼吸も浅くなっています。

機関銃と装備を降ろし、衣服を緩めて水をかけ、日陰へ移動させました。熱中症の疑いがあるため、無理をさせるべきではありません。

顔色が青白かったため、血流を頭部へ促すよう足元を少し高くしました。

「すいません、すごくしんどくて……」熱中症で倒れたことも気の毒ですが、B二曹に理不尽に叩かれたことも非常に気の毒です。

ほどなくして衛生が到着し、状況を確認後、救急車両に収容され、車内で治療を行いながら搬送されることになりました。

熱射病や日射病はいずれも体が過熱した状態です。そのため、できる限り涼しい環境を確保し、水をかけたり飲ませたりして体を冷却することが重要です。

行軍や炎天下での作業時に多く見られる熱中症ですが、単なる根性不足と決めつけるのではなく、適切な治療を行うことが大切です。

1 COMMENT

M

例2についてです
膝から下を失い大量出血している人にパルスオキシメーターはオススメ出来ません。この場合使うものはターニケット、止血剤、アドレナリン、点滴
パルスオキシメーターがオススメ出来ない理由は循環血液量減少性ショックの場合抹消血管が締まるため現場では正確な数値が出ないことが予想させるからです。
文にあるとおり、そんなことよりも止血が重要!それこそターニケットや止血剤を駆使して出血を止めなければいけません。大腿部を撃たれた場合も早くて15秒でショックに至り3分で心停止になると言われています。

これは人によって賛否両論ですが他に外傷がないのであればすぐに点滴をとってボリュームを上げた方が良いです。

それとこの想定でのABCDのDは中枢神経(意識)だと思います。
心肺停止のときの Dが除細動のDだと思います。
想定の流れではDABC(D)になると思います。

例3も緊張性気胸と判断した場合は腋の下にチェストチューブはすぐに刺せないので16ゲージぐらいの長い留置針を使って緊急脱気するぐらいです。その時は前胸部に刺します。

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