2003年にトイガンメーカー、KSCから発売された、S&W M945。
モデルアップの元となった実銃は、S&Wのカスタム部門である、パフォーマンスセンターが製作したModel M945で、コルトガバメント、いわゆる1911のパテントが1986年に切れてから、数多くのガンメーカーがガバメントのコピーモデルの製作を始めた、いわゆるコルト・ガバメントのメカニズムを模したモデルの一バリエーションだ。
モデルアップの元となった実銃
現在ではS&Wも1911のフルコピーとも言えるSW1911モデルを製作しており、こちらは他のメーカーの1911とパーツの互換性が保たれているが、M945は1911のトリガーメカニズムを取り入れてはいても、デザインはS&W独自の個性的なものである。
実はS&W M945は他の1911クローンと、ややその成り立ちが違う。
昔、S&Wにはトム・キャンベルというエンジニアが在籍しており、自分で設計し、鋼鉄の塊から削り出したスーパーガンという45ACPのシングルアクション・オートで、当時のIPSCや、ビアンキカップに参加していた。
その後、彼のスーパーガンは、45ACP、ダブルアクションオートのM645という形で銃市場に登場した。
当時、テレビドラマ、MIAMI VICEで、ドン・ジョンソン扮する、主人公のソニー・クロケットが、チェコのCZ75のメカニズムを基に開発されたBren Tenの後継として使用していた。
ステンレスの大柄なオートマティックが主人公のキャラクターにマッチしていて、当時、MGCから発売されていた、S&W M645のガスガンもヒットした。
余談だが、Bren Tenは鳴り物入りでデビューしたが、発表から発売まで五年もかかり、なおかつマガジンをイタリアに外注していたのだが、それもまた熱処理の不良であったりして、MIAMI VICEでの宣伝効果も虚しく、販売は振るわず、製造していたドーナウス&ディクソン社は倒産した。
その後、M645はM4506にモデルチェンジし、このあたりから、S&W社のモデルナンバーは四桁になった。
その後奇才と呼ばれる、南アフリカ出身のガンスミスであり、マッチシューターでもあるポール・リーベンバーグがS&W社に入社、同社内にパフォーマンスセンターというカスタム部門が設立された。
この部門では、競技用のカスタムや、限定品の設計製作や、新素材の開発やテスト、新しい弾薬の開発やテストも含まれる。
そして1997年、M4506のスライドを流用して設計されたM945が製作された。
M945のスライド後端の左右には、M4506に有ったセフティーレバーの名残が塞がれた穴として残されている。
また、1911ではスライド内部に組みまれているエキストラクターが外部に露出する設計になっている。
これはチェンバーに弾丸がロードされているとエキストラクターが、その存在を知らせてくれるので、実用の上でも現代的な改良点である。
その他にも、独自の機構を組み込んであり、その最たるものがバレル(銃身)とスライドのフィッティグである。
通常1911では、スライド先端のバレル・ブッシングでバレルを保持する。
最近ではラッパ状に先端がテーパー状に広がったバレルとスライドを、ブッシング無しで直接フィットさせるものも多い。
しかし、M945ではスフェリカル・ブッシングという機構を組み込んでいる。
これはスライド先端にボールジョイントのように自在に動くリングを勘合し、発射時にショートリコイルでバレルとスライドのロッキングが外れて、バレルがチルトアップする時にもストレスなく作動すると同時に、スライド閉鎖時にもバレルを正確にセンターに保持するメカニズムだ。
スライドはM4506の流用ではあるが、フレームは機構的にはコルトガバメントその物だ。
しかし、実際に握ってみればわかるが、グリップフレームのシェイプは1911クローンとしてはかなり異質で、1911よりも幅が薄く、前後に長く感じる。
これはM645の時もそうだったが、この辺りにも、当時のS&Wのエルゴノミクス・デザインに対する考え方が現れているように思う。
そして翌1998年1月のショットショーで発表されたM945は、賛否両論の衝撃を持って市場に迎えられる。
市場価格は$1,600以上と、一般的な1911クローンとは一線を画す高価格でありながらも、好調なセールスを示した。
これは、機構を1911からコピーしても、S&Wらしい新しい銃として市場が受け入れたという証明である。
実射性能もかなりのものらしく、45ACPを使用するハンドガンとしてはコントロールが容易で精度も高い。
これはやはり、パフォーマンスセンターが、各部のフィッティングを正確に行った結果であり、当然と言えば当然だが、1911を腕のいいガンスミスにチューニングしてもらうことを考えれば、むしろリーズナブルなのかもしれない。
現在、ポール・リーベンバーグは同社を去り、M945は生産終了している。
KSCのエアガン、M945
それではKSCがモデルアップしたエアガンのM945について。
KSCでは、M945のエアガンにモデルアップするにあたって、アメリカ・マサチューセッツのS&W社で実銃の取材を行っている。
刻印や商標に関しても、正式にS&W社とライセンス契約をしているので、実銃と同様の刻印が各所に再現されている。
ちなみにMGCのM645の時は、グリップに入っているはずのS&Wのマークが省略されていたりして残念だったが、そういう意味でもM945に関しては堂々とS&Wのメーカー名を冠している。
スライドやフレームに刻まれた繊細な刻印も、レーザーによる後加工である。
KSCは、後加工でCNCによる切削や、レーザーでの刻印など、外見のディテールに関しては、他のメーカーよりもコストをかけているので、エアソフトガンであっても、鑑賞に堪えるモデルが多く、とりわけM945に関しては顕著で、特にステンレスをモデルアップしたものはとても美しい仕上がりとなっている。
M945で外見的な特徴的としてあげられる点として。
スライド上のスケイルド・セレーション、うろこ状の滑り止め加工が目を引く。
実銃では当然切削によって切られる溝なのだろうが、ここに関してはやはり金型に掘られているようで、若干エッジが眠い感じはする。
それでも迫力は十分で、スライドを引く時には、他のモデルには無い感触を楽しめる。
スライドの右側面のエキストラクターも別部品だが、残念ながら可動はしない。
グリップパネルは樹脂製だが、綺麗な木目を再現しており、この部分も鑑賞に堪える。
操作系もロングのアンビセフティー、グリップセフティーもビーバーテイルで表面仕上げも良い。
ストレートのメインスプリングハウジングは細かいチェッカリングが施され、程よく手のひらに食い込む。
マガジンリリースボタンはワイドでチェッカーが入り、これも操作しやすい。
ただうっかり者はしょっちゅうマガジンを落としてしまうかもしれない。
グリップ全面にもチェッカリングが施され、トリガーガードの下がざっくりとえぐられており、この部分も握った時の印象が、他の1911とは違って感じるポイントだ。
トリガーは3ホールの軽量トリガーで、こちらもアジャスタブルで、シアが切れるポイントを調整可能だ。
ハンマー・シア・ディスコネクターの各パーツは、実銃と同様に焼結整形金属を採用し、トリガーのキレに関しては他に類を見ないほどシャープな出来となっている。
実銃同様のスフェリカルブッシングも、しっかり機構的にも再現されている。
スライドとフレームのガタも少なく、この辺りの雰囲気も高級カスタムを感じさせる部分だ。
それらがエアガンの実射性能にどの程度寄与するかはわからないが、なによりもリアルであるという点では素晴らしい。
リアサイトはモデルによって固定サイトとアジャスタブルサイトがあるが、スケイルドシルバー、スケイルドブラック、デュアルトーンについては上下左右の調整が可能なフルアジャスタブルサイトになっている。
やはりある程度の距離で精度を出したければ、ホップアップの調整と合わせて、アジャスタブルのリアサイトは必須だろう。
マガジンは亜鉛の本体を、ステンレスのプレスのカバーで覆っていて、そのカバーにも細かい刻印が再現され、実銃の8連シングルカラムマガジンの雰囲気をよく再現している。
ただし、STIなどのマガジンに比べるとガス室の容量が小さい上、カバーで覆ってあるので熱効率に劣るため、どうしても実射性能は落ちる。
それでも装弾数は15発なので、極端に気温が低くなければ実用上問題のない範囲である。
実際に撃ってみても、5mで12cmのプレートを外すようなことはないので、精度的に不満は出にくいだろう。
ただ、以前これをマッチで使おうと練習している時、とても気温の高い時であったのだが、ブッシングが突然前方に外れて飛び出したことがある。
その後すぐにスペアの銃でも起きたので、エアガン特有の構造的な問題があるのかもしれない。
対策としては接着剤でスライドに接着したのだが、これを実際のシューティングマッチに使うとなると悩ましい。