全国でも数少ないカスタムナイフメーカーの一人、大分県在住の「後藤渓」氏の工房、渓遊庵にお邪魔してきた。
以前より、ナイフマガジンや地元紙などで後藤氏の存在は知っており、県内で距離的に近いこともあって興味を持っていたのだが、会う機会に恵まれずにいた。
ある日、訪れた大分市の雑貨店「イルカンジ」内のショーケースの中にカッターナイフを見つけ、その木肌と模様の美しさ、そして道具としてのカッコよさに魅かれ、しばし見入ってしまう。
それが大分在住のナイフメーカーの作品だと知り、「イルカンジ」オーナーの木許氏に後藤渓氏を紹介いただくことに。
後日、木許氏のお兄さんから連絡を頂き、後藤渓氏の工房へと向かった。
実は、「イルカンジ」オーナーの木許氏のお兄さんは、大分県で県内の産業を活性化のために働かれており、このようなことも頻繁にお手伝いをされているらしい。実にラッキーだった。
そんなわけで、今回は木許氏と共に訪れて以来、2回目の訪問となる。
工房の中に入ると、後藤氏は工作機械に向かって作業中で、現在は10月に岐阜県関市で行われるナイフショーに出展するための作品制作に追われている様子だ。
工房の左手には制作途中だろう、切りだされた積層鋼など、ブレード鋼材が壁一面に並んでいる。
後藤渓氏が特にこだわるハンドル材も、ブロック状に切りだされ、きれいに整理し収納されており、ナイフになるその時を待つ。
写真は10月のナイフショーに向けて制作しているナイフで、鋼材は切りだすために準備中だそう。
下に見える鉄板は、武生特殊鋼材の積層鋼(ダマスカス鋼)で、後藤渓氏の造りだすナイフのブレードとなる。
現在、鋼材メーカーの生産が追い付いていない状態らしく、鋼材を入手すること自体、難しい状態が続いているらしい。
後藤氏がナイフ制作に使用する木材は、まず、約10×5×2cmほどのブロックにしたのち、材のくるう要因の一つである水分を無くすため、亜麻仁油で煮る。
亜麻仁油で煮ることで木材から水分がぬける、そして水分の代わりに油が木材の中部に浸透、木材はくるいの少ない安定した、水に強い材料に仕上がるそうだ。
後藤渓氏の工房で使用する材料は、硬くて水に強い、花梨コブ、黒柿、アイアンウッドなどが多いそう、その他にも、鉄刀木(タガヤサン)、チューリップウッド、ボコーテ、グラナディロなど、工房内には、美しい高級木材が大量に積まれていた。
写真に写っている材料の他に、奥の部屋にはさらに大きな木材と、やはりハンドル材として人気のある鹿の角がストックされている。
後藤氏の作品の一つ、チキリの付いた肥後守タイプの折りたたみナイフは、ハンドル部分に1本の無垢の木材を使い、ブレードの収まる溝を工作機械で削っている。
そのため、今までは水分を吸うことの少ないアイアンウッドを使うことが多かったそうだ。
現在、制作途中の折りたたみナイフを見せてもらった。
今回制作している折りたたみナイフは、ハンドルを従来の無垢材のブロックから切りだすタイプでなく、中央に水に強いアイアンウッドを使用し、両側を他の木材で挟んだ3層構造にしたという。
ハンドルの中央にアイアンウッドを使用することで、従来では使えなかった木材を使用することが可能となり、デザインのバリエーションを増やすことが可能になったそうだ。
工房内にはあらゆる工作機械が並ぶ。
最近はロシア向けに輸出するナイフも多くなったと言う。
現在は、10月のナイフショーに向けた作品と並行し、ロシア向けのナイフカタログに掲載するナイフを制作しているそうだ。
ロシア向けにオーダーされたシースナイフのデザインは、フルタング形状のハンドル鋼材のバット部分を露出させているのが特徴なのだと言う。
私もナイフの制作をお願いしたのだが、今年いっぱいは待つことになりそうだ。