数年前に、空母のような見た目の護衛艦が運用を開始したというニュースが流れたことを覚えているでしょうか?
ヘリコプター搭載護衛艦いずも型護衛艦と呼ばれる海上自衛隊の艦艇であり、それまでの艦艇の中でもひときわ大きく、見た目が空母に似ているということで当時話題となりました。
現在、日本の周囲では尖閣諸島や竹島を始めとした離島を軍事力で支配しようとする他国の動きが活発になり、防衛の観点から危機感が高まっています。
政府の示した日本の防衛計画には、空母を運用することで遠く離れた離島を防衛しようという構想があり、「いずも型護衛艦」を戦闘機が搭載できるように空母化しようとする計画に注目が集まっています。
ヘリコプター搭載護衛艦「いずも型護衛艦」とは
海上自衛隊の護衛艦と聞くと、スマートな船体に大砲を備え、弾道ミサイルを迎撃する目的で運用されるイージス艦を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、「いずも型護衛艦」は海上自衛隊の護衛艦の中でも異色の存在として知られています。
全長248m、排水量と呼ばれる船の容積は26000トン。全長160m前後で8000トンほどの容積のイージス艦に比べて全長は100mほど長く、容積は3倍の大きさと圧倒的な巨体を誇ります。
なにより最も目を引くのが、平らな甲板と片側に寄っている艦橋から、空母のような姿をしていることです。
この見た目からも分かるように、艦そのものの戦闘能力は低く、航空運用機能に重点が置かれており、最大14機のヘリコプターを積載することができます。
見た目も運用目的も空母のような「いずも型護衛艦」は、そのまま戦闘機を乗せると空母になりそうですが、そう簡単には空母になれないようです。
「いずも型護衛艦」が空母になるために必要な装備
空母にはその他の艦艇と大きく異なる設備が2つあります。それは、ジェット戦闘機を飛ばせるカタパルトやジャンプ台、エンジンから吹き出る高熱に耐えられる滑走路です。
カタパルトは大量の電力を消費するため、アメリカ海軍の原子力空母のような大型の空母にしか搭載できません。
また、ジャンプ台も艦の構造そのものが変わってしまうため、「いずも型護衛艦」への搭載は現実的ではないと言われています。
そこで、原子力空母のような設備を持たなくても飛ぶことができるF-35B戦闘機が着目され、日本でも導入されることになりました。
垂直離着陸機(STOVL機)であるF-35Bはその名の通り、甲板から垂直に離陸と着陸が可能ですが、離着陸時に噴射されるジェットエンジンの熱に耐えられるように「いずも型護衛艦」を改装してF-35Bの運用を予定しているようです。
そもそも日本に空母は必要か?
「いずも型護衛艦」を空母に改装できるとして、今の日本に空母は必要なのでしょうか?空母といえばアメリカ海軍の原子力空母が有名で、他国を攻撃する攻撃型空母が強くイメージされます。
50~70機の戦闘機を搭載する「攻撃型空母」は1隻で小国の空軍以上の力があり、まさに力の象徴と言ってもよいでしょう。
しかし、日本が今後、諸外国の政治には介入せず、他国と覇権をかけて戦争をする予定がないのであれば、この「攻撃型空母」は必要ないとする考えもあります。
そのような議論も起こるなかで、空母には軽空母と呼ばれる種類もあり、他国の軍隊と戦闘する力はありませんが、自国の領土や軍隊を防衛する役割を担っています。
実際に、イタリア海軍やタイ海軍が自国の海軍艦艇、離れた領土を防衛する目的で軽空母を運用しています。
あまり知られてはいませんが、戦闘機を10機程度運用できるイタリア海軍の軽空母「カヴール」よりも、海上自衛隊の「いずも型護衛艦」の方がわずかに大きい艦でもあります。
軽空母を運用する目的
他国を侵略できる力のある「攻撃型空母」は日本にとって必要ではないでしょう。しかし、「軽空母」なら日本にも運用をする目的があります。
ご存知の通り、日本には広い領海にいくつもの小さな離島があります。最近では、離島に他国の軍隊が上陸、占領されたことを想定して自衛隊にも新しい部隊が創設されました。
その部隊は水陸機動団と呼ばれ、離島をはじめとした日本の領土が他国から侵攻された場合に防衛作戦を実行する日本版の海兵隊とも称されています。
この部隊の作戦を空から支援するためには地域の制空権を確保する必要があり、わずかな戦闘機でも常に離島近くに配置できる軽空母は水陸機動団にとって頼もしい助けとなるでしょう。
このように、自国の防衛という観点から「いずも型護衛艦」の空母化における議論は急速に進んでいるのです。
「いずも型護衛艦の空母化」のまとめ
尖閣諸島や竹島に対する諸外国の脅威は大きくなりつつあり、現在ではイージス艦や現行の護衛艦がその動向に目を光らせています。
しかし、イージス艦や護衛艦単独よりも、空からの抑止力を発揮できる戦闘機を配備した空母は、日本の領土の防衛において非常に効果的です。
また、万が一離島が占領されてしまった場合には、空母に搭乗した水陸機動団が海から上陸して離島を防衛することになります。この場合にも離島の制空権を確保して、部隊を支援できる空母は必要不可欠となるでしょう。
さらに、アメリカとの関係性から米軍の後方支援としての役割も担うことが想定されており、同盟国としての立場にも注目が集まっています。こうしたことから、国産の空母が活躍するようになる日もそう遠くはないのかもしれません。