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砲弾の進化 – APFSDSとHEAT

現代の徹甲弾 – APFSDS

ここ数十年の間に、砲弾の世界でちょっとした先祖帰りが起こっているのは、ご存知でしょうか。

装甲を運動エネルギーで強引に貫く砲弾を徹甲弾といいますが、現代の主力戦車で使われている徹甲弾は、APFSDSといいます。

略さずに表記すれば、Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot。和訳して装弾筒付翼安定徹甲弾とも呼ばれます。

Armor-Piercingは徹甲、Fin-Stabilizedは翼(フィン)で安定させられたという意味で、Discarding Sabotは発射直後に、装弾筒が捨てられることを意味しています。

徹甲弾は速くて重く、先端が細いほど強力になるとされ、APFSDSはその極地とでも言うべき形状をしています。

弾体は太い釘のように長細く、そのままだと砲身の内側にフィットしないので、砲身にぴったり収まるための装弾筒がくっついています。

発射すると装弾筒が外れて、弾体だけが飛んで行くことからDiscarding Sabot(捨てられる装弾筒)と名前が付いているわけですね。

更にFin-Stabilizedと名付けられているように、弾の後部に安定翼が取り付けられています。

  • 細い弾体。
  • 尖った先端。
  • 安定させるための羽根。

どこかで見たことがあると思いませんか?そう、ダーツの形状にそっくりなのです。

ダーツは元をたどれば、弓矢の矢が原型なので、砲弾が昔ながらの矢に先祖返りしてしまったと言えます。

銃や大砲の出現が戦場から弓矢を消滅させ、戦車砲がとてつもない進化を重ねた末に、矢と同じスタイルに戻ってくる――兵器の進歩とは不思議なものです。

形状こそ、昔ながらのスタイルに逆戻りしたAPFSDSですが、その性能は圧倒的です。

戦車の主砲として一般的な120mm口径の場合、その初速は1650m/sから1750m/sにも達し、RHA換算、つまり均質な鉄鋼版に2000m先から撃ち込んだ場合、600~700mm前後の鉄鋼版を貫通できるとされています。

当然、矢のように細い形状も、性能を大いに高める要因の一つです。

速ければ速いほど、強力になる徹甲弾にとって、空気抵抗による減速は、そのまま威力低下に直結します。

その点、APFSDSは空気抵抗を受けにくい形をしているので、有効射程範囲内であれば殆ど威力が低下しないとされています。

音の五倍前後という凄まじい速度は、単に運動エネルギーを増大させて威力を向上させるだけでなく、とある不思議な現象を引き起こします。

これほどの速度の砲弾と装甲がぶつかり合うと、お互いにとてつもない圧力で圧縮され、塑性流動という現象が発生します。

これによって二つの金属はまるで液体のように振る舞い、砲弾は装甲と溶け合いながら貫通していくのです。

このため、装甲の傾きで砲弾を受け流す「避弾経始」は殆ど機能しません。

何せ装甲とくっつきながら貫通してくるので、弾きようがないからです。

一昔前の戦車は傾いた装甲を持っているものが多かったのですが、APFSDSの登場でこうした傾斜装甲は価値を大きく落としてしまいました。

もちろんAPFSDSにも欠点はあります。

第一に、反動の強さが挙げられます。

原理上、APFSDSは高速で砲弾を撃ち出さなければならないため、必然的に反動も強烈です。

このため、戦車以外の車両に搭載することが難しく、殆どの場合において戦車専用の砲弾になっています。

もう一つ、徹甲弾は速くて重くて先端が細いほど強力になると前述しましたが、問題は「重さ」です。

当然ながら重い金属を使いたいところですが、最適な素材であるタンタルはいわゆるレアメタルであり、極めて高価なので使い捨ての砲弾なんかに使ってはいられません。

一般的には少し妥協してタングステンの合金が使われていますが、こちらもタンタルほどではないにせよ希少品で、産出地も限られているので輸入に頼らざるを得ません。

これとは別に劣化ウランを材料とすることもあります。

劣化ウラン合金製のAPFSDSはタングステン製のものより性能が良く、飛び散った破片が燃焼する効果もあり、原子力発電所から出る廃棄物なので材料費が安いという点がメリットです。

しかし核廃棄物であるため放射線の悪影響が予想される上、材料費は安いものの加工にコストが掛かるので、総合的にはあまり安くなりません。

このため――特に前者の理由により、アメリカやロシアなど一部の国でしか使われていません。

材料調達に多少の労力は掛かりますが、先祖返りした徹甲弾は、今も戦車同士の戦いの中心を担っています。

もうひとつの主役 – HEAT

歴史上、砲弾は二つの種類に大別できます。

ひとつは金属の塊を直接撃ち出すタイプ。

徹甲弾やAPFSDSはこちらの系譜に連なる砲弾です。

もうひとつは砲弾内部の火薬などを爆発させるタイプ。

こちらは徹甲弾とは異なる進化を遂げてきました。

戦車砲の徹甲弾の進化を「基本に忠実な進化」とするなら、戦車砲の榴弾の進化は「原型がないほどの進化」と言えます。

本来、榴弾とは砲弾を爆発させて爆風と破片で被害を与えます。

ピンポイント攻撃の徹甲弾に対して、こちらはいわゆる範囲攻撃に向いていて、本来は分厚い装甲の兵器には効果が薄い砲弾です。

ところが、榴弾の「砲弾の内部で炸薬を爆発させる」というコンセプトを踏襲しつつ、分厚い装甲の戦車を破壊可能という砲弾も存在します。

それが対戦車榴弾(High-Explosive Anti-Tank)ことHEATです。

筒の内側に炸薬を凹型に詰め、その窪みの部分から点火すると、爆発の衝撃波が前方に集中して強い穿孔力が生じます(モンロー効果)。

普通に爆発させると全方位に爆風が飛び散ってしまうところ、モンロー効果を使えば、爆風のエネルギーを一点に集中させることができるのです。

更に炸薬の窪みに沿って金属の内張りをしておくと、一点集中した爆風が金属の内張りを物凄い速さで吹き飛ばします。

このとき、炸薬を詰めた筒に円錐形の蓋をしておくと、炸薬の爆発で吹き飛ばされた金属の内張り(ライナーと呼ばれる)が円錐の先端に殺到します。

APFSDSの項で、金属にとてつもない圧力をかけるとまるで液体のように振る舞うと説明しましたが、ここでも同じような現象が起こり、吹き飛ばされたライナーはまるで液体のように振る舞い、円錐の頂点から液体金属のメタルジェットとなって放出されるのです(ノイマン効果)。

HEATとは、これらのモンロー/ノイマン効果を利用した対戦車砲弾です。

モンロー/ノイマン効果を利用した炸薬を成型炸薬ということから成形炸薬弾とも呼ばれます。

メタルジェットの速さは7000~8000m/sに達するとされます。

ここでもAPFSDSと同じように「金属が液体のように振る舞う」現象が発生し、どんなに固い装甲であっても擬似的に液状化して、音速の二十倍以上の液体金属によって、貫通されてしまうのです。

装甲を無力化する原理そのものはAPFSDSと同様ですが、HEATはAPFSDSにはない強みを持っています。

前述のとおり、APFSDSは高速で砲弾を撃ち出さなければ効果がありません。

しかし、HEATは必要な速度を爆風の収束で生み出すので、砲弾の発射速度は低速でも構わないのです。

この長所のおかげで、戦車以外の車両はおろか、生身の人間でもHEATを扱うことができます。

戦闘車両や歩兵でも戦車を破壊できる対戦車ミサイルや、対戦車ロケット弾の弾頭も、HEATなのです。

理論上の威力はAPFSDSに匹敵し汎用性も高いHEATですが、戦車砲から発射される砲弾としてはAPFSDSほど主流ではなく、むしろ戦車以外が、戦車を破壊するために使われるケースが目立ちます。

理由のひとつは、現代の戦車に多く使われる複合装甲に対して効果が落ちる点です。

複合装甲は複数種類の素材を組み合わせて作られていて、セラミックもメジャーな材料です。

ところが、HEATのメタルジェットは金属を液状化させることはできても、セラミックは圧力不足で、液状化させることができません。

メタルジェットを受けたセラミックは、ごく普通に粉砕され、その破片がメタルジェットの勢いを削いで、貫通力を弱めてしまうのです。

もうひとつの理由は、メタルジェットの有効な距離が、数十センチしかないことです。

装甲から数十センチほど離して防護柵を設置すると、たったそれだけでHEATの威力が大幅に低下してしまいます。

現代の主力戦車の標準装備である複合装甲を苦手とするのは大きな弱点ですが、初速が遅くても構わないという長所によって、HEATは戦車以外が用いる対戦車兵器のメインストリームの座を確たるものにしています。

総論

徹甲弾の進化系であるAPFSDSは、一部の特殊な装甲以外に安定した性能を発揮しますが、高初速が必要なため戦車以外が扱うのは難しい砲弾です。

榴弾の進化形であるHEATは、低速でも効果を発揮するため汎用性が高いものの、既に数多くの対抗手段が開発されています。

徹甲弾と榴弾、二種類の古典的な砲弾の末裔は、それぞれ独自の進化を遂げながら、お互いの長所を活かして住み分け合っているのです。

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