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涙ぐましい対戦車兵器の数々

Rujani tank battle (26)

硝煙の向こうから独特の金属音とともに圧倒的な質感を伴って迫り来る敵戦車。

塹壕の中、歩兵は貧弱な兵器を握りしめ、極限の表情で息を潜めて肉薄の機会をうかがう・・・戦争映画でしばしばモチーフになるのが、歩兵が対戦車戦闘を行うシーンです。

戦車に死角が多いとはいえ、装甲と圧倒的な火力を有する戦車が相手の戦闘は、歩兵にとって決死の覚悟が必要となります。

そんな歩兵たちの願いが込められた、古今東西の涙ぐましい対戦車兵器をご紹介します。

カサパノスと、モロトフカクテル

第2次世界大戦前の1939年、ソ連軍はフィンランド国民を「解放」してあげようと大軍でフィンランド領内に侵攻、いわゆる「冬戦争」です。

侵攻したソ連軍の兵力が100万人に対してフィンランド軍は全軍でもその4分の1の兵力、戦車に至っては、フィンランド軍は機銃装備のビッカースやルノーFTがわずかに30両に対し、ソ連は6500両以上。

この戦いにおいて対戦車戦闘の大半は歩兵によって戦われたのです。

ここで多用されたのは、「カサパノス」と呼ばれる収束爆薬と、「モロトフカクテル」という火炎瓶でした。

カサパノス」はドイツ製の例の棒付き手榴弾(M24、いわゆるジャガイモつぶし器)の周りに更に爆薬を巻きつけたもので、手製の武器なので統一されてはいませんが、弁当箱から棒が突き出た形が大部分でした。

モロトフカクテル」は単なる火炎瓶、と言ってしまえば身も蓋もないのですが、「ソ連の外相モロトフに贈るカクテル」という戦場ならではのブラックユーモアが効いたネーミングで有名です。

勇敢なフィンランド兵は歩兵の援護がないソ連戦車に忍び寄っては、エンジングリルやキャタピラなどの弱点にこれらの武器を投げつけたのです。

この戦争に投入されたソ連戦車は、装甲が薄いか、T28やT35などの鈍重な多砲塔戦車であった上に、ガソリンエンジンだったので炎上しやすい構造で、これらの武器で撃破されたソ連戦車は何と230両あまりと言われています。

この戦闘はソ連に大きな損害を与えますが、湖が多く、大平原が存在しないフィンランドの地形もフィンランド兵の味方となったのです。

恐るべき対戦車手榴弾チビ弾

現在の戦車はNBC防護フィルターを装備しているので放射線や毒ガス、生物兵器から乗員が保護されていますが、1940年台の戦車にはそのような装備はなかったので、そこに目を付けた軍がありました。

当時の大日本帝国陸軍です。

1930年に起きたいわゆる「ノモンハン事件(日ソ双方9000人ずつに近い戦死者を出しておいて「事件」もないものですが)により、帝国陸軍は対戦車手榴弾の開発に乗り出します。

ノモンハン事件では、対戦車砲と歩兵の肉薄攻撃により、ソ連の戦車に少なからず被害を与えたのですから、対戦車砲や戦車の性能を高めようとするなら話はわかりますが、「対戦車手榴弾」だと、結局歩兵の肉薄攻撃が前提ということで方向性がおかしい上に、この手榴弾は斬新な発想で開発、戦車を撃破するのではなく、中の乗員を殺してしまおう、というのです。

陶器製の手榴弾の中にシアン化化合物と硫酸を入れた手榴弾を敵戦車のエンジングリルめがけて投げつけます、すると容器が割れて発生した毒ガスがエンジングリルから戦車内に吸入され、乗員は死ぬ、という寸法です。

他国で(多分)類を見ない発想で、うまく行けばキングタイガーだろうとスターリンⅢ型であろうと、無傷で無力化できるかもしれません。

一見、まんまるい素焼きのトックリのような、(有田焼が多かったそうです)この恐るべき対戦車手榴弾の名は「チビ弾」。

ノモンハン事件で戦ったBT(ロシア語で快速戦車の頭文字です)戦車をひっくり返してやろう、ということから「TB」にして、これを「チビ」と読んだと言われており、ネーミングセンスも世界に類を見ないものとなりました。

しかし、風下だと投げた兵隊自身が危なそうな、このチビ弾は日本軍兵士にとって幸いなことに、実戦で使われる機会はありませんでした。

諸刃の剣だったソ連の対戦車動物兵器

そんな時代に、人道的?なソ連が考えだしたのは、訓練した犬に爆弾を背負わせて、ドイツ軍戦車の下に潜り込ませるというものでした。

犬の背中の爆薬に直立した起爆レバーが付けた構造で、戦車の下に潜り込むとレバーが倒れ、背負っている爆弾が爆発するという兵器です。

無論、犬も名誉の戦死を遂げるわけで、動物愛護協会とかを気にしないで済みそうなソ連ならではの「動物兵器」と言えるでしょう。

戦死したワンちゃんには、ドイツとの戦いで功績があった者に与えられる「祖国戦争勲章」でもさし上げて欲しいところです。

この地雷犬、ソ連の主張によると300両ものドイツ戦車を撃破したとのことで、戦意高揚のためのデマかと思いきや、ドイツ軍もある程度の対策を取っていることから全くのウソではないようです。

戦車エースの戦記にも、駆け寄ってくる地雷犬を見つけ、「アハトゥンク!ミーネンフンデ」と味方に注意を促す場面があります。

その地雷犬対策とは、戦車に火炎放射器をつけて焼いてしまおうというものでした。

1942年の戦闘で、この火炎放射にパニックとなったワンちゃんたちの多くが、味方のソ連陣地に逃げ帰って爆発するという、ドイツ軍にとっての大手柄を挙げ、これをきっかけに地雷犬は使われなくなりました。

これ以前にも、戦車の爆音に怯えたワンちゃんが舞い戻ってきて爆発したり、訓練時にソ連戦車を使ったのを思い出してか訓練に忠実にソ連戦車の下に潜り込んだりと、ソ連兵にとって警戒すべき兵器であったようです。

対するドイツ軍は、やはりワンちゃんに任せてはいられないと思ったのか、成型炸薬を使った、ちゃんとした対戦車手榴弾を開発、磁石も付け敵戦車に確実にくっつくようにという細かい配慮もなされましたが、結局は歩兵が決死の覚悟で使うことに変わりはありません。

そして敗戦間近には燃料は付き、対戦車兵器はパンツァーファウストだけ、となった時にこの状況を見事にクリアしたアイディアが生まれました。

パンツァーファウスト30を2基も積めるように自転車が改良、これさえあれば燃料を使わずに戦場に駆けつけ、憎き敵戦車を最大で2両も撃破して、荷物が軽くなった分、素早く離脱できるのです。

パンツァーファウストの有効射程距離は約30mですから、手榴弾よりはマシ、という程度、ここに挙げた、どの兵器も、ほとんどが戦車に気付かれないように近づき、やっと使えるかどうか、というものばかりで現代では全く通用しません。

現用戦車はセンサー類が発達している上に機動力があり、近づこうとしても察知されてしまいます。

ひとたび戦車に察知されれば、陸上自衛隊の10式戦車のようにデータリンクのシステムが進んだ戦車では、近くの味方戦車にもその情報はすぐに伝わるために、ますます接近が難しく、しかも、現在の戦車は主砲を打つ際、命中精度向上のために一度停車する、といった事がありません。

主砲と射撃装置の安定装置(ジャイロスタビライザー)の性能向上により、走行しながらの射撃でも命中精度が落ちなくなったため、戦車が主砲を撃つために停止している所に接近、ということも難しくなりました。

全身に泥などの温度を遮る物を塗りたくった上で、戦車が幸運にも停止している場面にでも遭遇しないと、歩兵の勝ち目は無いのが現状と言えるでしょう。

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