第一次世界大戦のマークI(Mk.I-Mk.V)戦車の登場以来、戦車は陸上の戦いの主役です。
戦車の登場から100年以上を経て、現代の戦車はどのように進化を遂げ、今後はどのような戦車が登場してくるのでしょうか。
ここではそんな視点から戦車について詳しく見ていきましょう。
戦車の装甲
戦車の装甲は常に進化を続けていますが、最近ではさらに多様な工夫がなされています。
戦車が登場した当初、装甲は単なる鉄板でした。
しかし、最近では鋼鉄など複数の素材を積層したコンポジットアーマー(複合装甲)など多種多様な装甲が登場しています。
スペースド・アーマー(空間装甲)がその一つで、装甲の間に空間を設けることによって敵弾の破壊力を減らすことができ、特に成形炸薬弾などに効果が高くなっています。
ほかにも多様な素材が使われ、特に劣化ウランを用いた装甲は新しく、この素材を用いることによって大変強固な装甲にでき、コスト的に安価で経済的にも魅力です。
とはいえ、劣化ウランを用いた装甲が強固とはいえ、人体には悪影響がありますし、一部の敵弾に対してはあまり効果が薄いことも指摘されています。
しかし2018年現在、経済的に劣化ウランよりもパフォーマンス高い装甲は生み出されていないのが実状です。
装甲のRPG対策
最新の動向として、各国が特にこだわっているのがRPG(対戦車擲弾発射器)への対策です。
弾頭を変えれば最新の戦車装甲にも、比較的かんたんに対処できるRPGは、対策のかなり難しいとされている兵器です。
低強度紛争が増えている昨今、RPG対策はかなり重要視されており、先進国の戦車には例外なく徹底したRPG対策が行われています。
装甲と弾頭の開発競争はしょせんいたちごっこですが、新しい装甲を開発するよりも、弾頭の開発のほうが、遥かに簡単で低コストなことも見逃せないポイントです。
レーザーを用いてミサイル弾頭を破壊することは既に実用化されていますが、こうした技術が戦車にも取り入れられ、RPG対策の一つとして検討されています。
地雷とIED対策
また、地雷やIED対策も強化されてきています。
現在では戦車同士の戦いが大幅に減り、戦車の主な脅威が対戦車地雷やIED(即席爆発装置)になってきているからです。
IED対策としては単に下部装甲を強化するだけでなく、さまざまな工夫がされています。
車高を高くするのもその一つですが、車高を高くするとそれだけ敵に発見されやすくなるのが悩ましいところです。
装甲の軽量化
より低強度紛争が増え戦略機動性が重視されることから戦車も、より軽量なことが求められています。
当然、装甲も軽量さが重要となりますが、装甲の軽量化を実現するためにはやはり劣化ウランのような新素材の利用が欠かせません。
戦車の武装
装甲以外にも注目しておきたいのが戦車の武装です。
戦車の武装は多様な発展を遂げましたが、現在でも主な武装はライフルバレル、スムースボアバレルから打ち出す砲弾で敵戦車を破壊することです。
一時期はミサイルの利用も検討されていましたが、戦車においてミサイルの活用は限定的です。
これはミサイルのコストがかなり高いことに加え、ライフルバレルから打ち出される弾丸に速度的に劣るため、迎撃されやすく、敵にかわされやすいことが要因です。
また全ての戦車はライフルバレルまたは、スムースボアバレルのいずれかの砲を搭載していますが、主要国の戦車はイギリスを除き、全てスムースボアバレルを搭載しています。
これはスムースボアバレルが後述するAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)にとても適しているためです。
一方、イギリスの戦車はライフルバレルを利用していますが、これはイギリス軍が使用している戦車用弾丸と関係しているためなのです。
戦車の砲弾
対戦車砲弾 APFSDS
戦車ではさまざまな砲弾を使用していますが、その中でも成形炸薬弾は多くの戦車に搭載されている砲弾です。
これは爆薬の配置を工夫することによって貫徹力を増やすことが可能で、しかもバレルの長さにかかわらず一定した貫徹力が期待できるためです。
そのため成形炸薬弾は小型車両でよく利用されており、RPGもこの成形炸薬弾を使っています。
とはいえ、成形炸薬弾は防御対策しやすく、攻撃の対象によっては効果が少ないことも考えられます。
そのため実際の戦場では、APFSDSがよく用いられています。
これはダーツ状の砲弾を打ち出し、炸薬ではなく敵装甲を高初速によって質量、速度といった砲弾の運動エネルギーによって破壊、撃ち抜くものです。
このAPFSDSはコスト的にもかなり安く、どんな対象に対しても効果が高いことが特徴です。
ソフトターゲットを破壊する砲弾
他にも多様な弾丸が用いられていますが、爆風・爆圧によってダメージを与える榴弾(HE)もその一つです。
このHEは主に軽車両や人員などソフトターゲットに対して用いられますが、敵戦車に対しても一定の効果があります。
戦車に弾丸をどのような配分で搭載するかはミッションによっても変わりますが、低強度紛争においては敵戦車と戦闘になることはほぼないことから榴弾がメインとなります。
砲弾の配分としてはHEが6割、APFSDSが2割、それ以外が残りを占め、敵戦車との戦闘が想定される場合は、よりAPFSDSを増やします。
戦車の未来
戦車の武装はこれから大幅に変更され、特に最近注目されているレイルガンが戦車に搭載される日はそこまで遠くないでしょう。
レイルガンを用いることによって、はるか遠くの相手も倒せますし、コストもとても安くなります。
しかし、まだまだレイルガンは実験途上であり、小型化も難しいようですが、それでもレイルガンを搭載できれば一気に戦車の効率性を高めることができます。
さらに戦車の無人化も検討されています。
無人戦車は攻撃にあっても人員の損失が少なく、より対応速度が早くなるといった利点があります。
無人戦車は技術的に難しい面がまだまだあるもの、アメリカの研究機関であるダーパ(DARPA、国防高等研究計画局)などでも研究がなされています。
また、ミサイル戦車もその可能性が放棄されたわけではありません。
ミサイルの製造コストも下がってきていますしミサイル戦車は、なにより対空戦に強いといった利点があり、様々なミッションをこなすことが可能になります。
軍事の世界は進化が著しいですから、今後はミサイルの製造コストと性能次第でミサイル戦車が主流になってくるかもしれません。
いつの時代も陸上戦闘の主役、戦車は装甲にしても武装にしても常に発展し続けており、近い将来、いままで見慣れたものと、その姿、形はかけ離れたものになるかもしれません。