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銀幕の中の軍用機

戦争映画で、戦車と共に主役を務めると言えば、軍用機です。

キュラキュラ…」というキャタピラ音が先に聞こえてきて、登場するまでの緊迫感が描かれる戦車ですが、それに対して、軍用機、特に戦闘機はその速度ゆえに突如として現れて戦場の様相を一変させるという使われ方が多いようです。(最近では、映画プライベート・ライアンでトム・ハンクスと対峙し、ティーガーⅠを撃破したP51 マスタングが典型的な例です。)

映画に登場する軍用機

戦車を映画の撮影用に用意するのもたいへんですが、飛行機はさらに困難です。

しかも、戦車と違い、飛行機はハリボテを付けるというわけにはいかず、とは言え、登場する国と矛盾する飛行機を飛ばすのも興ざめなので、映画を見ても機種が識別しにくいような登場の仕方が少なくありません。

例えば、戦争のはらわた(1977年、英独合作)で出てくるソ連機役は、どうやらF4U コルセアらしいのですが、本物かどうか確認は難しいです。

同じく、ネレトバの戦い(1969年ユーゴ)で空襲をするドイツ機役は、カウリングの大きさからラボーチキン系列かとも見えますが、はっきりしません。

また、史上最大の作戦(1962年米)では、Dデイ当日、空から反撃を行ったドイツ機はプリラー大佐とヴォダルチック軍曹のFw190のみでしたが、このシーンはBf109に模したBf108でした。(コックピットの位置が違うので容易に識別できます。)

巨匠ルネ・クレマン1952年の名作、仏映画「禁じられた遊び」は第二次大戦のフランスが舞台であり、冒頭で主人公ポーレットを含む避難民の列がドイツ軍機の攻撃を受けます。

しかし、映画の伴奏音楽のギャラにも事欠く状態(なのでナルシソ・イエペスのギター1本で音楽をまかないました。)の中、軍用機の撮影に使えるお金はありません。

そこで、空襲の飛行機の映像だけはニュース映画など、他からの映像を使ったようです。

まあ、この映画のテーマからいけば軍用機などは小さな問題だと思ったのか、そのためミリタリーファンからの突っ込みどころ満載のシーンとなりました。

何とHe111やJu87が爆弾を落としています。

避難する丸腰の民間人を攻撃するのに、バトル・オブ・ブリテンと同じ態勢で臨んでいます。

とどめは主人公一家を機銃掃射するドイツ機が、Fw190であることです。

この映画の出来事は1940年6月という設定ですが、Fw190の運用開始は1941年ですから、幻の新兵器に機銃掃射されたことになります。

実機を使うのなら「これしかなかったんで」となりますが、他の映像を使うなら選択の余地はあったでしょうに。

実機を使った映画

なりすまし」ではなく、実機がその機の役を務めることができれば迫力満点言うことなしです。

第二次大戦の余韻も冷めやらぬ1949年の米映画、頭上の敵機では実機のB-17がふんだんに使われ、スタントパイロットが操縦して胴体着陸するシーンまでありました。

1990年英映画 メンフィス・ベルは「頭上の敵機」と同じくB-17モノですが、映画中ではB-17Fという設定だったのに、使用したのがB-17Gだったので、F型にはない機首下面の機銃座をわざわざ取り外して撮影しています。

細かいようですが、こういうこだわりは他の部分にもリアリティを持たせると私は思います。

1964年の英映画「633爆撃隊」(「SWⅣ」のデス・スター攻撃シーンの元ネタではないかという話でとみに有名です)には、「木の奇跡」「空飛ぶ樫の木モック」ことデ・ハビランド「モスキート」の実機が使われ、危険な場面もトリック無しで撮影されました。

それは、監督のウォルター・グローマン自身、第二次大戦で50回以上、B25爆撃機で出撃したベテランパイロットで、「観客にこの戦闘場面で、生か死かと手に汗を握らせるためには我々もまた生死を賭けて撮影しなければならない」という信念を持っていたから・・・って、普通こんな人に付き合いきれませんよね。

ところが、モスキート懐かしさに、元パイロットが搭乗を志願してワンサカ押しかけたのだそうです。

なお、フィヨルドを縫って爆撃に向かうモスキートを後ろから攻撃するTIEファイター・・・もとい、Bf109の役は、やはりBf108が務めています。

トラ・トラ・トラ

さて、軍用機映画の東西横綱、「空軍大戦略」と「トラ・トラ・トラ」について書いてみます。

まずは東(単に極東が舞台なので)の横綱「トラ・トラ・トラ」ですが、超大作であるだけでなく、航空機の描写に非常に凝っているという点でも語り草となる作品です。

By: Cliff

この作品で有名なのはアメリカのT-6練習機 テキサンを改造して零戦に模した、通称テキサン・ゼロでしょう。

水平尾翼の位置と、少し後退翼である以外はかなり優秀な出来栄えです。

また、バルティBT-13を九九式艦爆に改造した機体も評価が高いです。

更に凝っているのは、テキサンとBT-13の似ている部分をを継ぎ足して「九七式艦攻」役の飛行機を作ってしまいました。

ここまで来ると飛ぶのに支障が出ないか心配で、いつもは実機に似てないのどうのと文句をつけるミリタリーファンも、「いや、そこまでして頂かなくても」と恐縮しそうです。

勿論日米合作ですから、アメリカ側の実機には事欠きません。

飛行場で駐機中のP-40同志が空襲を受けて「グワシャ」と破壊されるシーンは大迫力です。

降板した黒澤明の無念が乗り移ったかのようなこだわりぶりです。

これらの飛行機は今だに戦争映画では重宝され、「九九式艦爆」「九七式艦攻」は2001年の米作品「パール・ハーバー」にも使われました。

ただし、「トラ・トラ・トラ」から受け継いだのは機体だけで、内容は零戦52式が飛ぶのが見ものというだけの、100年前の欧米人の日本に対する偏見を見事に映像化した映画になってしまいました。

西の横綱、空軍大戦略

次に西の横綱1969年の映画「空軍大戦略」です。

イギリス映画だけあってホーカー「ハリケーン」、スーパーマリン「スピットファイア」という主役が実機なのはさすがです。

しかしこの映画では、それに加えてドイツのBf109と、爆撃機He111も実機で見紛う機体が登場します。

それもそのはず、これらは戦後スペインで、それぞれイスパノ HA 1112および、CASA 2.111の名で作られたライセンス生産品なのです。

ただ、エンジンはオリジナルのユンカース・ユモ系列ではなく、どちらも敵機スピットファイアやハリケーンと同系のロールス・ロイス マーリンが使われているので、空戦ではマーリンの音だらけです。

しかし、そこまで贅沢を言ってはバチがあたろうというものです。

これだけ実機(と近いもの)を揃えましたが、最初の方の「やられメカ」であるJU87だけは、実機を飛ばすことはできませんでした。

さて、無数の飛行機雲が行き交うロンドン上空の決戦シーンは、スケールの大きさだけでなく、双方のパイロットの恐怖と悲劇をも描き出しています。

この数分のシーンには一切効果音はなく、ウィリアム・ウォルトンの音楽だけが響きます。

その金管楽器の雄叫びは、死神の哄笑にも聞こえます。

ともあれ、もうこのような空戦映画は作れないと断言してもいいくらいです。

最近は実機がもはや少なくなっているのと、CGの発達で、これからは「パールハーバー」のような方式を採る映画が増えることが予想されます。(「男たちの大和」でのF6Fヘルキャットも、CGとしての出来はなかなかでした。)

しかし、いくらCGが発達しても、そこにリアリティを求める情熱がない限り、パンフレットでの謳い文句でしか役に立たないでしょう。

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