戦争を題材にした映画では、戦車が良く登場しますが、小火器などと違い、撮影のために用意するのは、簡単ではありません。
では、戦車を映画に登場させる場合、どうするかというと、考えられるのは次の方法です。
- ①実車を使う。
- ②実写フィルムを使う。
- ③使える車両をそれらしく見せる。
- ④CGを使う。
②と④は、戦闘機と違って、人間が一緒に映るシーンが多くなる戦車では、不自然になりやすいでしょう。
①ができれば一番いいのですが、映画を作った国によっては実車が残っている場合もあるでしょうが、普通、敵側の戦車はないことが多く、③との併用になります。
最近公開になった「フューリー」は①の実車を使用した代表例で、この世でたった1台の可動であるタイガーⅠ「砲塔番号131」が使用されて話題になりましたし、対するシャーマンも実車でした。
本物の戦車が登場する映画
しかし、このような恵まれた例は、他にはほとんど見られません。
ほとんど知られていませんが「1945ドゥクラ峠の戦い」という1955年のチェコスロバキア映画があります。
冷戦時代、チェコは東側諸国だったお国柄、T34は腐るほど実車が登場しますが、驚くのはドイツ側の戦車が実車だと言うことです。
かなり注意して見ましたが、(砲塔の傾斜、防楯、ハッチ、砲の先のマズルブレーキ)パンターの実車を使っていることに、ほぼ間違いないのです。
ソ連戦車の砲塔はドイツのものより大きいため、(特にT34-85以降)かぶせ物をしてドイツ戦車に見せようとしても、頭でっかちになるのですぐに分かってしまいます。
恐らく鹵獲したものでしょうが、撮影にパンターの実車を使った映画というのは、かなり珍しいでしょう。
その他では、フィンランドがソ連の侵攻に立ち向かうさまを描いたフィンランド映画「冬戦争」では、ソ連戦車としてT26軽戦車の実車が出てきます。
さすが鹵獲兵器の使い方がうまい国だけのことはあります。
それらしく見せたT34戦車
さて、大部分の映画は③のパターン「使える車両をそれらしく見せる。」になります。
しかし、いくら上から精巧なかぶせ物をしても、動いた姿を取る場合は車高、砲塔の大きさと位置、転輪の形は本物と同じにはできません。
「ネレトバの戦い(1969年)」では、戦車はドイツの軍のものしか登場しないのですが、T34に鉄十字をぺっ、と張っただけのものと、砲塔と車体にもかぶせ物をしたものが登場します。
後者はタイガーに見せようとしたのでしょうか、角ばった感じがなかなか雰囲気が出ています。
ただ、貴重なタイガーをパルチザン掃討作戦に使ったとは思えないので、「ドイツ軍」という記号として登場させたと言えます。
サム・ペキンパー監督の傑作「戦争のはらわた」には本人役(?)でT34-76が出てきます。
多少傷つけても気にならないくらい数があるらしく、建物の壁を破って登場したり、ムチャさせられたりもしますが、戦車の恐ろしさを表現するのに成功しています。
1959年のドイツの白黒映画「橋」ではT34が、いつもと違う使われ方をします。
主人公達はドイツの少年兵なので、敵はシャーマン戦車なのです。
映画では鉄十字章を貼られることが多いT34が、シャーマンに扮した珍しい例ではないでしょうか。
ただ、T34とシャーマンでは車高がかなり違うので、「アメリカのマークをつけた何だか平べったい戦車」という趣です。
しかし、映画の出来はそんなことが気にならないほどの傑作です。
T34以外の戦車
T34以外の例も見てみましょう。
1974年の「戦車対戦闘機(原題 Death race)」は、何が起きるかとてもわかり易い邦題のアメリカのテレビ映画です。
ここでドイツ戦車として、武器の一方の主役を張っているのがシャーマンの長砲身です。
低予算だからなのか、その気がないのか、シャーマンに鉄十字章を張っただけ。
もしかして、鹵獲品を使っているという深い設定なのか?と疑いたくなるほど、逃げも隠れもしないシャーマンそのままなのです。
先ほどの「橋」の制作スタッフに貸してあげたいほどです。
1977年米英合作の「遠すぎた橋」は、言わずと知れた「マーケット・ガーデン作戦」が題材です。
その中で登場するタイガーⅠの「中の人」は、レオパルド1でしょう。
ドイツ戦車がドイツ戦車に扮するというのはなかなか無いことなので銘記すべき作品なのですが、2つの戦車は砲塔の大きさが違うので、かなり無理がある結果になったのは皮肉なことです。
アメリカ戦車が出演した戦争映画もかなりの数にのぼります。
中でも活躍したのはM24軽戦車「チャーフィー」でしょう。
チャーフィーが実際に戦闘に参加した「ラインの守り」作戦を描いた「バルジ大作戦」にシャーマン役で出ています。
なお、ドイツのタイガーⅡ役はM47「パットン」が務め、しかも何の細工もしていないという、戦車ならなんでもいいか的な作り方にしか思えません。
連合国側のミーティングでM47の模型を示して「これがキングタイガーだ」と言ったセリフについて、「ワシはマリリン・モンローじゃ」とイタコが言っているようなものだ、と激しい怒りを示したミリタリーファンがいましたが、言い得て妙だと思います。
史実は極寒の戦いだったのに、スペインロケが多かったためか、後半は砂漠っぽいシーンが多かったのもポイントが低いところです。
1969年のアメリカ映画「レマゲン鉄橋」では、川を挟んで両軍が激しく撃ち合うシーンがありますが、連合国側の戦車として登場しているチャーフィーが高速走行しながら砲撃するシーンは、兵器の考証を離れて見ると迫力が楽しめます。
1966年米仏合作映画「パリは燃えているか」においてはチャーフィーはドイツのパンターやアメリカのM10駆逐戦車に扮しています。
しかし、軽やかな運動性能を見せるシーンがあり、軽やか過ぎるパンターとなっています。
1994年のフランス映画「ザ・ロンゲスト・デイ」は、題名からして間違えて借りさせようとしていますが、私はこれをVHSのレンタルで見ました。
パッケージには「タイガー戦車が実写で!」と書いていました。
当時私は、タイガーⅠ、Ⅱ共に可動車両が、世界に1両ずつしかないとはつゆ知らず、このアオリ文句に惹かれて借りてしまいました。
が、出てきたのはマウルティアベースのパンツァーベルファーと、ヘッツァーだけ。
恐らくこれは製作者でなく、配給会社のしわざですよね。(はっきり言って詐欺です。パッケージにはアイドル映画と銘打っているのに、そのアイドルが出演していなかった場合を考えてほしいものです。)
日本映画に登場する戦車
最後に日本作品からも1つ。
1964年の山田洋次監督作品「馬鹿が戦車でやって来る」を取り上げてみます。
戦後のとある村で、元戦車兵の主人公が隠し持っていた旧日本陸軍の戦車を乗り回して、村をパニックに陥れるという内容です。
主人公である戦車ですが、陸軍の戦車に類似点はあるのですが、一致する戦車が見当たらなのです。
それもそのはず、これは雪上車の試作型を改造した、オリジナルの戦車だったということです。
その割には指揮戦車に見られるアンテナが見られるなど、芸が細かい点が見られます。
余談ながら、ふざけた題名と内容に思えるかもしれませんがこの作品を隠れた名作として評価する人は少なからずいるのです。(若いころの岩下志麻も見れます。)
結局、同じ作り物でも、「本物は使えないけど、工夫して雰囲気をなるべく出すぞ!」と思うか、「どうせ本物は使えないし、観客もそのへんは分かって見てるから、なんかハリボテをかぶせとけばいいか」と考えるか、という作り手の熱意は見る側にも伝わってくるのではないでしょうか。
その点では、「プライベート・ライアン」は、スピルバーグがその辺りにかなり気合をいれたので、ミリタリーファンからも高い評価を得ることが多いのです。
トム・ハンクスが拳銃一挺で立ち向かうタイガーⅠは、本物を使っていない映画の中では、一番の出来ではないでしょうか。