ネイビーシールズ(Navy SEALs)といえば、アメリカ海軍の特殊部隊でも特に名の通った隊であり、かなりの精鋭ぞろい、デルタフォースや、グリーンベレーと並ぶ、屈強な男達として有名です。
勘違いしやすいのは、海軍なんだから海辺じゃないと弱いと考えがちですが、シールズ(SEALs)とは、SE(A)【海】、A(IR)【空】、L(AND)【陸】の頭文字なので、陸海空を問わず、特殊作戦をこなす事が可能な軍隊です。
近代の米軍特殊部隊としては最も歴史が古く、9.11テロ事件を起したといわれるウサーマ・ビン・ラーディンの殺害作戦を遂行したのも彼らです。
しかし、彼らは元から屈強な兵士だった訳ではなく、過酷な訓練や試験をのりこえ、残った者だけが、ネイビーシールズの隊員となれるのです。
そこで今回は、ネイビーシールズの過酷な訓練模様をご紹介したいと思います。
まず第一に入隊資格ですが詳細は以下の通り。
・アメリカ海軍、もしくはアメリカ沿岸警備隊に属しており、男性である事。
・アメリカ合衆国の市民権を保有している事。
・17歳以上、28歳以下である事。
・資質テストをクリアする事。
簡単に言えば、アメリカ人で海軍出身の若くて有能な男ということですが、規定をみるかぎりは、17歳でトライ(訓練後は19歳になる)することも可能なので、アメリカ国籍の日本人が19歳でネイビーシールズになるというのもルール上はありえる事です。
資質テストをクリアしたあとは、基礎教育課程に入り、体力審査テストが行われます。
このテストの中には、水泳技術に関しては1500フィートを12分30妙内で泳げるかや、1.5マイルをブーツ履いて11分30秒で走りきれるか、2分以内に腕立て伏せを42回出来るかや、腹筋を50回出来るかなどもふくまれているため、この時点で一般市民とはかけ離れた屈強な男どもに限定されてしまうわけです。
その次におこなわれるのが、基礎体力訓練、身体的に鍛える事もさることながら、精神面を徹底的に苛めぬかれます。
障害走や、ゴムボートでの訓練、水中順応訓練であれば、両手首両足首を縛られた状態でプールに投げ込まれ、更にプールの底に落ちている、フェイスマスクをとってこなくてはいけないなど、非常に厳しい訓練が続きます。
そして、特に厳しいのがヘルウィーク「地獄週間」とよばれる、4週間目から1週間どおこなわれる訓練。
5名から7名ほどのチームで開始され、期間中、さらに厳しい状況に追い込まれます。
たとえば、低体温病になる寸前の過酷な状況においこまれたり、泥の中を何キロも歩かせられたりします。
しかも、それにくわえ、睡眠時間が非常に短く、充分な休息時間を与えてもらえません。
(睡眠時間に関しては、通常合計4時間程度と言われていますが、課題を1位で通過したチームは、ボーナスの睡眠時間が1時間ほど与えられる事になっています。)
しかし、実はこの訓練、仲間よりも自分を優先させる志願者を見つけるための訓練でもあり、チームワークを優先できないようなものは突破できなくなっています。
特殊部隊という都合上、自分優先に行動されては隊員の命を危険にさらし、作戦は失敗になりかねないため、早い段階で自分中心の人間を弾くというわけですね。
このヘルウィークが終わった後は、すこしの休憩後、水路学を4週間かけてみっちり仕込まれます。
これが終わると、今度は潜水訓練に入ります。
ここで潜水技術や水中工作技術を学ぶわけですね。
中には100%の酸素を使用したボンベを使う訓練もありますが、これは酸素中毒の危険性も考えなくてはいけないため、非常に危険な訓練となります。
酸素中毒を回避するためには、5メートルほどの深さしか、潜水できないため、ごく一部の作戦でしか使用されない道具ですが、無視できない訓練として確実に教え込まれます。
そして基礎訓練の最終段階が、地上戦訓練。
銃器や爆発物の扱いから、精密射撃や偵察、ロッククライミングや隠密作戦など幅広い範囲で行われ、最終的にはカリフォルニア州のサンクレメンテ島で広範囲演習を行います。
この段階で、脱落者は合計8割を越え、残っているものは2割もいません。
こうした基礎訓練が終わった後は、最終訓練に突入。
まずは空挺降下訓練にはじまり、降下と着地の技術をひたすら学び、空挺降下資格者をめざします。
訓練内容は、高さ10メートルの場所から生身で着地する方法から、ブランコ式の着地訓練、夜間を含むパラシュート降下方法などを学びます。
全部で3週間を予定していますが、後半になるほど難易度があげられるので、恐怖に打ち勝てないものはここで失格です。
次にまっているのがSEAL資格訓練。
ここでようやく、SEALsらしい特殊部隊訓練が本格化します。
訓練の内容は、通信技術の習得、近接戦闘、狙撃や空挺降下のレベルを引き上げる事で、これまで候補生だったものをいっぱしの一人前にするために訓練をほどこされます。
この訓練に合格すれば、海軍特殊戦章を授与され、SEAL海軍下士官兵適性区分コードを与えられる事になります。
しかしこの後も訓練は続き、次に待っているのは基礎寒冷地海洋訓練です。
極寒の地アラスカで、寒冷地における訓練をみっちり叩き込まれます。
この訓練後にやっとSEALs隊員として作戦に従事するわけですが、ここまではあくまで基礎訓練。
すでに30ヶ月ほど消費していることになりますが、この後もひたすら訓練の毎日です。
さすが、アメリカ海軍特殊部隊といった印象ですが、名誉ある身分であることも確かで、除隊後も元SEALsというだけで、高待遇で働ける会社はいくつもあります。
ちなみに訓練中は、みずからギブアップしなくとも、常に担当教官らによる審議会がおこなわれているので、能力不足の場合は失格になる可能性があります。
残留が決定したとしても、再履修を命令されることもあり、ストレートで隊員になれるものは、本当にごくわずかです。
ただ、基礎訓練を終了した段階で一度、卒業式が行われ、訓練としては一応の区切りがあり、最終訓練を終えれば新米であろうとも隊員にはかわりなく、一般的名兵士よりも能力が高いとされています。
まとめて考える分に、新米でも所有している能力は、高水準の体力とチームワークを優先できるメンタル、そして忍耐力と根性、高度な潜水技術や水中工作技術に加え、地上戦闘術や空挺降下技術など、名前だけ聞けば最強の兵士のような雰囲気ですが、ここから更に鍛えて、語学力や応用技術を学びます。
よく、海外ドラマなどで「元ネイビーシールズ隊員」なんて言葉が出てきますが、かなり稀有な存在だったんですね。
精神的にが病んでしまえば、犯罪に手を染めたり、転落人生を歩む事もあるかもしれませんが、ボディーガードとしては充分すぎる能力を持つ事は確か。
立派なお屋敷のリーダー格ガードマンが元特殊部隊で何でも出来るというのもあながち嘘ではないかも知れません。
ちなみに元ネイビーシールズの肩書きを持つ中で、最も有名な人物はウィリアム・シェパード。
かれは宇宙飛行士へと転進し、国際宇宙ステーションで初の長期滞在ミッション時の機長を務めており、後に宇宙名誉勲章を受賞しました。
合計でいえば宇宙で159日以上すごした人物であり、シールズ(陸海空)にくわえ、宇宙まで到達したとても偉大な人物です。
2009年には宇宙飛行士の殿堂にも選出されており、NASAにとっても非常に貢献した方だといえるでしょう。