プラスチック爆薬というと、特殊部隊からテロ組織まで必需品のように扱われ、戦争を題材にしたゲームや映画では高確率で登場する兵器の1つですが、その歴史をご存知でしょうか?
歴史上始めに登場したのはゼリグナイトというもので、1875年にダイナマイトを開発した事でも有名なアルフレッドノーベルによって発明されました。(ノーベル賞を設立した人間でもあります。)
このゼリグナイトというのは、ダイナマイトと比べても大変に便利なため、現在でもテロ組織によって使われる事が多く、特にアイルランド共和軍、通称IRAが行った爆弾テロにより有名になってしまいました。
ちなみにこういった発明も含めてノーベルは当時、「死の商人」とか「最短時間で大勢の人間を殺す方法を発見して金持ちになった男」などともいわれており、死後の自身の評価も考えノーベル賞を作ったといわれています。
そして第二次世界大戦の頃、イギリスがゼリグナイトを元に開発したノーベル808というものを戦場に投入。これはイギリス軍の特殊作戦により広範囲で用いられました。(特徴的なアーモンド臭がする緑色のプラスチック爆薬だったそうです)
これと同時にアメリカ軍でも新型プラスチック爆薬の開発がすすみ、トリメチレントリニトロアミン、通称RDXとよばれる爆薬を元に数種類のプラスチック爆弾が生まれました。
プラスチック爆薬の種類
まずひとつが、RDXをただワックスでコーディングしたもの。
これをコンポジションAと呼び、改良を重ねた結果A-3というものまで生まれましたが、現在はPBX爆薬というものへ切り替わっており、あまり使われていません。
理由としては、コンポジションAの輸送中などに爆発事故が多かったため。
銃弾などが命中するとすぐに爆発してしまうので、そのような厳しい環境化でも二次被害を生み出さないように生み出されました。
次に、RDXをTNTを共融させたコンポジションB。
これは非常にたかい威力をもつもので、爆弾としてもそうですが、砲弾や魚雷、機雷などの炸薬として使われる事の多いプラスチック爆薬です。
プラスチック爆薬とは要するに、意図しないときには爆発しない高威力の爆薬なわけですから、こういった用途へ使うのにも便利なわけです。
現在では、さらに高威力な炸薬が開発されているため、コンポジションBもAと同様に、あまり使われなくなってしまいました。
そして最後にコンポジションC。
これは可塑剤、つまり粘土のように柔らかい物質とRDXを混ぜた携行性の高いプラスチック爆薬で、アメリカ軍の歩兵や、特殊部隊が良く使用している爆弾です。
このうちC-2とよばれる爆薬は、現在でもSWATが突入時のドア破壊や突入口生成につかうもの。彼らは場合により渦巻きのように練りつけて爆発させるものも使い、これにいたってはその塗り方からハンバーガーとよばれたりもします。
次にC-3。
これは非常に効果的で長らく使用されていたが、寒冷地ではひび割れを起し、脆いという欠点がありました。
当時のソビエトと仲の悪かったアメリカにとって、これは致命的であったこともあって、改良を重ねて生まれたのがコンポジションC-4つまり「C4爆薬」です。
C4といえばプラスチック爆弾の代名詞ともよばれる爆弾で、最も一般的な軍事爆薬でしょう。
非常に柔らかく、どこにでも設置できるため、様々な軍事作戦に利用されているわけですが、反面爆発テロ事件の兵器としても扱われる事が多く、意図しなければ爆発しにくいとはいっても、一般人がおいそれと手に入るようなものではありません。
これと同時期に生まれ、C4と同じくプラスチック爆弾の代名詞となりつつあるのがチェコ産のセムテックスとよばれるもの。
役割としてもほぼC4と同じようなものではあるが、扱える温度域が広いために、場所をあまり選ばないため、数多くのテロ組織や紛争に用いられ、どちらかというと悪名の高い爆弾でもあります。
対テロ対策
このような背景もふくめ、悪名高いC4やセムテックスといった爆弾は、パンアメリカン航空103便爆破事件という出来事により、ある国際条約が制定されました。
この事件の概要は、ヒースロー空港を飛び立ったパンアメリカン航空103便が、離陸後40分たって、丁度スコットランド地方の上空で貨物コンテナが爆発。
乗員乗客、計259人と墜落時に巻き添えとなってしまった11名を含め計270人が死亡しました。(このなかにはロンドン在住の日本人も含まれていたため、当時日本でも大きなニュースとなりました)
事件後、すぐにこれはプラスチック爆薬を使用したテロと判明。
国際問題に発展したため、プラスチック爆薬(可塑性爆薬)にたいする条約がうまれたのです。
その条約内容は、これら爆薬に対して、生成時に爆発物マーカーとよばれるものを含ませる事。
これにより爆発物探知機にひっかかりやすくなるので、テロを未然に防ぐ確率を上げることが可能になり、これを行っていない爆薬に関しては製造、移動禁止、存在するものは破棄する事という内容です。
ただし、この国際条約を全ての国が守っているというわけではないので、国会未加入の国においては爆発物探知機をすりぬけてしまう爆発物を生成してしまう可能性があるし、加入国圏内でもテロリストが自作した場合は、探知できない可能性があります。
(最も、自作したとばれないように、C4などに似せて作られてしまう可能性もあります)
さて、こうまで悪名高いC4をアメリカ軍は具体的に何に使うかというと、主に建物の破壊や壁の穴あけ、柱の切断などに使われています。
また素早く前線陣地を構築する工兵にとっても不可欠な装備であり、これを使用しない行軍は殆どありません。
戦地の瓦礫破壊や敵施設、車両を破壊するのにも使えるので、銃とともに戦場の看板ともいえる兵器なのです。
ちなみに小分けでき、変形も可能、爆発のコントロールが容易なために、意図しない範囲まで及ばないように調節できるため、民間の建築物解体にも使用されているのですが、そうでもなかったら、民間人が使用することは禁止されるべき爆薬とも言えるでしょう。
日本では今のところ、プラスチック爆薬による大きなテロは発生していませんが、今後起こらないとは限らず、さきほどの国際法に基づき、管理は厳しく徹底されています。
島国であるため、国内に簡単に密輸入されることも少なそうに思えますが、解体業社や自衛隊、アメリカ軍駐屯地には存在しているため、そのもの自体は国内に無数に存在します。
意図せずに爆発することが少ないため、爆発事故などが起こる危険性はきわめて低いですが、上記の通り、事件へと発展する可能性があるため、第二のパンアメリカン航空103便爆破事件とならないよう、注意が必要なのでしょう。
(21世紀にはいってからは、おおきな爆破テロが起こっていないものの、20世紀代には日本でもいくつか爆破テロが発生したことがあります。)
いすれにしても、軍事利用やテロ行為には多く使用されるプラスチック爆弾。
映画やゲームで見る分には、非常に華々しい戦果をあげたり、逆に敵側の武器として利用されるわけですが、かなり危険な武器であることは明白です。
C4が廃れたとしても、次のプラスチック爆弾、もしくは粘度質な別の爆薬がこの世に登場するでしょうから、兵器マニアでなくても、この世から聞か無くなる日は暫くないでしょう。