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電子戦について – C4ISR

軍隊を人体に例えると、司令部が脳にあたり、各部隊は手足となって動きますが、司令部と各部隊をつなぐ指揮系統と、これを支える通信システムは、脳から手足へ命令を伝える神経の役割を担っています。

これらはC2(指揮・統制:Command Control)システム、あるいはC3I(指揮・統制・通信・情報:Command Control Communications and Intelligence)システムと呼ばれています。

これにコンピューターを加えてC4I、さらに監視・偵察(Surveillance,Reconnaissance)を加えたものがC4ISRです。

このシステムを簡単に表現するなら、「状況を正しく認識し、正しく部隊を指揮する手段」ということができるでしょう。

昔の将軍は、戦場の様子がわからないことを「戦場の霧」と呼びました。

その昔、プロシアの戦略家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、戦場の情報は不確実な要素であり、それはやむをえないものなのだと考えていました。

しかし、現代の軍隊では、C4ISRが勝利のための重要な要素であると考られており、多くの機材や人材をこれに振り向けています。

とくに情報・監視・偵察の分野では、偵察部隊、偵察機、無人機、哨戒機、偵察衛星などが活動するほかに各種センサーが敵の動向をうかがっているのです。

このようにして得られた情報はネットワークにより司令部に送られ、司令部ではそれを把握した後に分析を行い、その結果に基づいて指揮下の部隊を動かします。

かつて情報は、斥候やスパイにより集められ、伝令によって伝えられ、将軍や参謀が知恵を絞って分析を行っていました。

現在、これら一連の作業は、センサーと情報通信の進歩のために、そのほとんどがIT化、コンピューター化されています。

このことから司令部には、かつてないほどの膨大なデータが集積されますが、これは諸刃の剣でもあります。

なぜなら、最終判断を下すのはやはり人間であり、膨大すぎるデータがその判断を狂わせてしまうこともあるからです。

しかしながら、近年のITの発達速度には目を見張るものがあります。

人工知能の発展と実現が、人間の意思決定を、その支援にとどまらず、完璧に代替し得る未来も、決して否定できるものではありません。

C4ISRにおいて通信は非常に重要で、戦史をひも解けば、枚挙にいとまがないほどの事例に、その重要性を見ることができます。

日露戦争中の日本海海戦では、対馬海峡を通過するロシアのバルチック艦隊の状況を、日本の連合艦隊がすぐに知ることができたのも無線があったからにほかなりません。

現代の通信は無線、電話、コンピューター間のデータ通信で構成されており、これらは有線・無線・通信衛星などにより、結ばれています。

もともとアメリカが軍の通信研究用に開発されたインターネットですが、これが一般に公開されてからアメリカ軍は独自のネットワークであるSIPRNetを使っています。

SIPRNetは、インターネット同様TCP/IPプロトコルを用いていますが、一般からのアクセスは不可能であるといわれています。

通信の基本は電波で、さまざまな周波数の電波が使用されています。

周波数とは、信号の変化する周期のことですが、たとえば、日常で使用している交流電源の周波数は50Hz、これは毎秒50回の周期で電流が変化していることを意味します。

電気信号の伝達速度はほぼ一定であり、30万km/秒、この数字を周波数で割ると、信号の周期の長さ、すなわち波長が求められ、この波長によって電波の送受信に用いられるアンテナの大きさが変化します。

たとえば、周波数が3Hz~30Hz、波長が10の8乗~10の7乗mと長大な潜水艦への通信に使うELF(極超長波)では、送信所に巨大なアンテナが設置され、航空機から送信する場合、後部から長いアンテナ線を空中に延ばします。

電波は基本的に周波数が少ないほうが遠くへ届くという性質をもち、長波(30kHz~300kHz)、中波(300kHz~3MHz)、短波(3MHz~30MHz)は電離層で反射し、より遠方まで届きます。

ただし、周波数の少ない電波は高速通信には向かず、さらにELFの場合は数語しか送信することができないため、事前に決められたコード(符牒)しか使用できないと言われており、このため、大量のデータを送信するには通信衛星に中継してもらう必要があります。

無線通信は傍受されやすく、無線LANやBluetoothと同様、スペクトラム通信や周波数ホッピングといった技術を利用し、それを防いでいます。

人間でたとえるならばC4ISRの機能は、五感と脳、神経の機能にあたり、これを失えば、深刻な事態が訪れることになります。

この事については、比較的古い時代から認識されており、司令部は一時的に無線封鎖をしたり、離れた場所に無線機を置くなどの工夫を凝らして、位置が敵に見つからないようにしていました。

司令部の位置が露見してしまえば、すぐに戦闘機や爆撃機の攻撃を受ける可能性があったからです。

また電子戦の概念の登場以後では、敵の無線を妨害する部隊も編成されるようになります。

エア・ランド・バトルは、アメリカが実際に戦術として採用しているもので、まさにC4ISRを攻撃することによって敵の戦闘力を奪うことを目的としており、後方の司令部や通信施設を無力化することで、敵の中枢を麻痺させることができるのです。

これからの戦争および紛争ではC4ISRを巡る戦いの激化が予想され、通信手段に対する妨害や破壊、センサーに対する欺瞞や隠ぺいが行われ、GPSのような測位システムも攻撃の対象となり、さらにGPS衛星や通信衛星などへの攻撃手段も検討されています。

自爆して破片をまき散らし、敵の衛星を破壊するキラー衛星を軌道に打ち上げる方法、地上から衛星を狙いミサイルを発射する方法などが考えられていますが、前者では商業衛星にも影響を与えかねず、後者では命中率が低いといった問題が残っています。

物理的攻撃のみならず、コンピューター・ウィルスやネットワークへの侵入といったサイバー攻撃も脅威です。

ではC4ISRへの究極の攻撃とは何かといえば、それは核兵器による攻撃です。

高高度で爆発した核爆弾は、熱・爆風・放射線などの効果を地表に及ぼすことはありません。

しかし、かわりに強力な電磁気パルス(EMP)を発生させ、広範囲にわたり電子機器やデジタルデータに損害を与え、停電が生じ、携帯電話・有線電話・インターネットが不通になり、交通システムも麻痺します。

コンピューターに依存している自動車や航空機は、その制御を失って停止するおそれがあります。

さらに電子妨害のような一時的なものだけが、EMPによる被害ではなく、電子回路、ハードディスク、USBメモリーなども焼き切られます。

爆発の高度によっては効果の及ぶ範囲が数百kmにもなり、たった1発の核爆弾で敵国のインフラをほぼ完全に破壊することが可能です。

核EMP兵器は、精密な打ち上げ技術さえ確立してしまえば、新興核保有国やテロリストでも大国を脅かすことのできる手段となります。

軍隊のC4ISRでは、EMPから電子機器を守る対策は既にとられ始めていますが、いまだ十分とは言えない状況です。

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