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無人飛行機ドローンの歴史とこれから

By: Michael MK Khor

頻発するドローン事件

2015年4月、日本の官邸屋上で一機の無人飛行機「ドローン」を発見されました。

機体には福島の立ち入り禁止区域から持ち出した砂や、放射性物質を表すマークが貼り付けられており、後に反原発活動家がテロ行為として故意に飛ばしたものであると判明したのです。

今回日本で起こった「ドローン侵入」の問題点は、この官邸の屋上の警備体制です。

この屋上は一ヶ月以上誰も確認しておらず、飛ばした犯人ですら妨害目的の選挙に間に合わず、「まだ発表がない?」といらだっていたほどのズサンさであったそうです。

しかしながら、実は2002年の3月にはすでにこの「官邸屋上の警備体制の問題」が提起されていました。

当時、アメリカでは同時多発テロが発生し、一方国内では「日韓ワールドカップ開催」があり、セキュリティを強化していたのですが、その際警備上の抜け穴といえる問題が多く指摘されており、その中には「無人飛行機によるテロ行為への対策」が具体的に述べられていたのです。

しかし、官邸はこの13年間、何も対策を取っていなかったことが今回の事件をきっかけに露呈しました。

ドローン侵入事件というモノは日本に限った事ではありません。2015年1月、アメリカのホワイトハウスで、墜落した一機のドローンが発見される事件が発生。

実は酔っ払ったシークレットサービスのエージェントがふざけて飛ばしていたドローンだったことが判明しました。

また、2014年にはフランスの原発関連施設に多数のドローンが進入するという事件が発生しましたが、犯人は未だ捕まっていません。

ドローン開発の歴史

ではそもそもドローンとはいつごろ作られ、どのように利用されてきたのでしょうか。

無人機の研究そのものは第一次世界大戦時から行われており、アメリカ陸軍が開発した木製の空中魚雷「ケタリング・バグ (Kettering Bug) 」という飛行爆弾の研究開発が当時としては最も進んだものでした。

今から百年前1915年には、イギリス陸軍航空隊が偵察機でドイツ軍陣営の1500枚以上の空撮を実施し、鉄道の状況や運搬に伴うドイツ軍の作戦を把握する事に成功し、1939年には無人飛行機「ラジオプレーンOQ-2」がアメリカで世界で初めて量産され、無人機の本格的な製造・運用が始まります。

1980年代には、イスラエル軍で航空機設計を担当していたアメリカ在住のイスラエル移民であるエイブラハム・カレム氏が、自宅のガレージで「Gnat-750」を開発。当時の米軍の無人機では、一度の飛行時間は数時間が限界だったが、カレム氏が個人的に開発した「Gnat-750」は、その飛行時間が50時間を超え、これにより無人飛行機の行動範囲は一気に拡大することになります。

1994年1月には、アメリカ国防総省の国防高等研究計画局とジェネラルアトミックス社(General Atomics)との間で、「Gnat-750」をベースとした新型無人偵察機の開発が始まりました。その半年後には、より静かで安定した飛行ができる「RQ-1 プレデター」第一世代が発表されます。ちなみにプレデターは、「Gnat-750」よりもずっと大型の無人機です。

「RQ-1 プレデター」の当初の仕様は、偵察用カメラのみを搭載する無人偵察機でしたが、2000年12月にアメリカ国防総省はプレデターに対戦車ミサイル「ヘルファイア」を装備させることを承認しました。これにより、プレデターは攻撃機能を有することになったのです。

ドローンによる戦闘とマイナス面

その後、2001年9月11日の同時多発テロが発生してから、米国内ではテロリストに対する意識や対応が大きく変わり、ドローンを利用したテロリスト容疑者をターゲットとした殺害プログラムが開始されました。

アメリカはイラクやアフガニスタンなど、海外での戦争に参加しており、これらの戦闘でアメリカ人兵士の死者数が増えるほど、無人機を遠隔地から操作し、アメリカ人兵士を安全圏に置いたまま敵を攻撃するという戦法の需要は増していくでしょう。

しかし、無人攻撃機からの攻撃では、標的となる人間を一般人かテロリストか判別することは難しく、間違って一般人を殺害してしまう事案が多く発生しています。アメリカ軍が2004年以降に起こした、見誤りによる一般人殺害事件の犠牲者は957人にも達し、その中には200人の子どもさえ含まれているのです。

このほか、無人攻撃機をアメリカ国内から操衛星経由で遠隔操作する米軍兵士の精神面における負担も大きくなっています。

仕事として基地に出勤し、無人攻撃機を操縦して遠く離れた戦地の人間を大量に殺害した後、勤務を終えて帰宅し、家族と平和なひと時を過ごという環境のギャップが、精神的にダメージを与えているとの意見も出てきており、国際政治学者のP・W・シンガーは、イラクの戦地で活動する兵士よりもアメリカ国内で無人攻撃機を操縦する兵士の方が心的外傷ストレス障害を高い割合で発症していると指摘しているほどです。

また、手のひらサイズで自由に飛行し、状況の把握はおろか、敵に対して自爆といった形で攻撃・殺害が可能な「虫型無人偵察・攻撃機」も作成・改良されており、このタイプの無人機が実際に戦地で利用されるのもそう遠くないでしょう。

現代のドローン利用

ドローンは現在、軍事利用に留まらず、広く民間にも普及しています。民間では以前から田畑への農薬散布に、また工事の現場では、架空電線路用の予備線を張るなど危険な高所作業を人間の手に頼らずに行うため、ドローンを利用していました。

多額の費用と時間を使いヘリコプターで行っていた空撮も、今やドローンを使えばプロ・アマチュア問わず、いとも簡単に実現できます。また災害時や、人が立ち入ることの難しい地域の被災状況を調査することも、ドローンによって容易になりました。

被災地への救援物資の輸送も、ドローンなら容易に行えます。災害で隔絶した地域への物資輸送や簡易な医療活動で活躍することも可能です。

ドローンと法律の関係

ドローンは新技術、絶え間ない改良で進化する一方、多くの新たな問題も生み出しています。新技術であるため各国の法規制がそれに追いついていないのが現状です。このように軍事目的で戦地に投入されるドローンの運用は、アメリカ国内法だけでなく、国際法で規制されるべきですが、各国の思惑が入り乱れて、なかなか進みません。

逆に、法があったために改良や新技術以前に開発自体が破綻してしまったケースあります。ドイツがアメリカのグローバル・ホークを基礎としたドローンを開発しようとしたのですが、このタイプの機体はドイツだけでなくヨーロッパ全体で以前から法的に飛行が禁止していたのです。

また日本においては、かつてヤマハが農薬散布目的で開発したGPS搭載の高性能ドローンの一種である、産業用無人ヘリコプターを中国など各国に輸出しようとしたのですが、不正輸出だとされ、問題になったケースがあります。

現在の日本国内でドローンを飛ばすことの法規制は大変ゆるく、無いに等しく、そのため簡単にテロ行為に利用される可能性があります。

あのオウム真理教も、地下鉄サリン事件を起こす前、サリンやボツリヌス菌などの化学兵器を高性能ラジコンから広範囲に空中散布するという計画を立てていたそうです。

当時はドローンの技術がまだ進歩していなかったので、実行には至りませんでしたが、もし今の時代に同じ計画をやろうとすれば、街で売られているドローンを悪用すれば容易に実現できてしまいます。

今回、日本の官邸に対して行われたテロ行為では幸い被害者が出ませんでしたが、ドローンを使用して大規模な被害を出すテロ行為は、いつでも起こりうることです。

組織だった行動ではなく、個人で勝手に行動に移す「ローンウルフ(一匹狼の意)」のテロリストがドローンテロを思い立ったとしたら、これを防ぐ事は大変困難だと言わざるをえません。

今後、ドローンの利用については現実的な対策と法整備を早急に、国際基準で進めていくべきではないでしょうか。

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